捧げ華~濁りの君よ~【完】

終章 君ニ捧グ華 /流ルル春

―――結論から言えば、何も失わなかったわけではなかった。



零は、左腕の自由を失っていた。



しかし、その原因はシベリアに行くより前にあったらしい。



以前、零は左肩に怪我を負った。



傷自体は既に塞がり、何の問題もないように見えたが―――それが、落とし穴だった。



傷を負った際、その傷はわずかに神経を傷付けていたそうだ。



だが、零は違和感を覚えながらもそれを放置していたため、それは徐々に腕の神経を蝕んだ。



そして、シベリアにて敵の攻撃がその部分を直撃し―――零の左腕は、使い物にならなくなった。



それでも切断したわけではなく、右腕は問題なく使えるため、本人は至って平気そうな顔をしている。



しかしシベリアで何があったのか、詳しく話そうとはしなかった。



ただ聞くところによると、零の所属していた部隊は確かに敵襲にて全滅させられたらしい。



だが、辛うじて息のあった零と他数名が運良く救助された。



されど左肩を含めた全身に深い傷を負った零は生死の境をさまよい、一時は本当に息が止まったらしい。



それが戦死通知の件に繋がり、桜子たちの元に届いた。



床から起き上がるのにも半年の時間を要し、日本へ送還されようにも深い雪に阻まれ、ようやく本土に辿り着いても指揮系統が混乱。



そうこうしているうちに約一年の時間が経ってしまい、こうなってしまったのだという。



おまけに自身が死んだことになっているとは夢にも思わず、帰って来てから屋敷の者に亡霊扱いされた挙げ句、塩をまかれたとか。



―――すべてが良かったというわけではない。



零の腕は切断こそしなかったとは言え、元通りにはならない。



悲しみに暮れた日々がなくなるわけでもなければ、あの苦しみが消えることもない。



それでも―――。










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