タランチュラ 本編

第5章 /1)対峙

「……貴様は?」

銀髪の女はルゥを見て眉を潜める。

ルゥはうつむき震えている。呼吸も荒い。

「メチル?」

ロスメタが心配げに顔をのぞく。

「ほぉ、もっと懐かしい顔だな」

ルゥより先に銀髪の女、レインが口を開いた。

「貴様は確かタランチュラの小娘。まさかこんなところで会えるとはな」

レインは左目の眼帯に手を当て、ルゥを見下す。

「貴様たちの裏切りで隠密部隊の幹部は皆処分が下った。私はこんな辺鄙なところで毎日毎日あくびがとまらない仕事をさせられるようになったが、あの事件以来、貴様たちにくれてやった左目がうずいて熟睡できる日など1日もなかった。

だが、…今日からよく眠れそうだな」

レインは前髪をかきあげ、一瞬笑った。しかし、表情をすぐに変え、声を張り上げた。

「もう1人の小僧はどこだ!貴様たちタランチュラはこの私が首をはねよう!」

空気がピリリと振動する。普通なら恐怖に怯えてしまいそうな女軍人の態度に、さきほどまで震えていたルゥはクスクス不気味に笑っていた。

「…す」

「え?」

ルゥが言葉を発した。とても小さな声でロスメタは聞き取れなかった。ルゥがゆっくり立ちあがる。

「殺す…お前だけは私が…殺してやるっ!!」

ルゥは杖を手に取り、レインに襲いかかろうとするが、彼女との間には牢の鉄格をあり、ルゥが鉄格子を杖で叩くたび、金属の大きな音が鳴り響いた。

“カンカンカンカンカンっ”

「ぅぅぅぅぅぅぅぅううう!」

獣のような唸り声をあげながら力任せに杖を振り回すが、大きな音を発するだけで鉄格子は大きく振動するのみで、レインに届くことはなかった。ルゥは一歩引き、杖を横に構えると杖の先端についている赤い大きな宝珠に右手で魔力を込め、末端に向けて手でなぞった。すると、先程まで魔法の杖の姿をしていた物は、光を帯びながら深紅の鞘に収まった刀に姿を変えた。

「ほぅ」

レインは一瞬目を見開き、納得した様子でうなづいた。

「研究開発班が作った最高傑作のひとつ、魔力をもつ名刀、アリーンか…。貴様は所持していたとはな。

…確かもう一本紛失していたはず。もとの持ち主はバタフライからタランチュラに渡っていたな。名剣、ツンベルクも貴様たちの仕業か?」

ルゥはレインの問いなど耳に届いていない様子で同様に鉄格子越しに襲いかかる。

“カンカンカンカンカンっ”

先程より甲高い金属がぶつかる音が響いた。時々格子の隙間から突きを繰り出すも、レインには届かなかった。

「貴様1人では価値が低い。

もう1人の小僧は確か貴様に入れ込んでいたな。こちらから動かずとも、貴様を探して向こうから出向いてくれる…か。

まさか、この数年でくたばっている…なんてことはないだろうな?」
レインは嘲笑い、

「貴様はこのままここにいるが良い。命拾いしたな」

そう言って地下を後にした。去っていくレインの背をルゥは鉄格子にしがみ付いて威嚇していた。

「ぐぁぁぁぁぁあああああ!!」

“ガンガンガンガンガン!!”


レインが去った後もしばらくルゥの獣のような叫び声と鉄格子を素手で叩く虚しい音だけが地下に鳴り響いた。

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