タランチュラ 本編

第6章 /1)チェシルとマリーテル

「あのーお取り込み中悪いんだけど~」

聞き覚えのない少女の声。

ルゥは驚いて、慌ててメチレンを押してからだを引き剥がした。

「あぅっ!」

メチレンが間抜けな悲鳴をあげる。ルゥの手が傷口を強く押していた。

「ご、ごめん!」

慌てて手を離す。

「あー、怪我人発見ー!」

少女がメチレンに向かって指差す。

逆光で顔はよく見えないが、二人の少女が立っていた。

「誰、あれ?」

メチレンは左肩を押さえながら目を凝らす。ルゥも目を凝らす。

「あ、あれは…も、もしかして…」

メチレンの顔が青ざめる。

ルゥはまだ目を凝らしている。

こちらに向かってくる二人の少女。

「治療開始しますっ!」

近づくにつれ、その容姿がはっきりしてきた。同じ顔をした白と黒のナース服を着た少女。白いナース服の少女が特大の注射器を構え満面の笑みを浮かべ、その横で黒いナース服の少女がギラリと光る銀色とフォークとナイフを持って無表情で近づいてくる。

「ちょ、ちょ、ちょっとちょっと待て待て待て待て待てぇ!」

メチレンが後退る。

「注射なんてぜぇーったいヤだし、片方は絶対おかいしだろぉぉおおお!」

涙目で二人を指差して訴える。

「あ、間違えた」

黒い方の少女が手に持ったフォークとナイフと見て、ボソッと呟き、腰に吊るしたポシェットに片付け、代わりに切れ味抜群そうな先端が尖ったハサミを2本取り出した。そして、カニのようにカシャカシャと動かしながら近づいてくる。

「どっちも嫌だぁぁあああ!」

全力で嫌がるメチレンをみて、白い方の少女が大笑いする。

「めっちゃくちゃおもしろーい!何こいつ~!この感覚久しぶりっ」

ゲラゲラ笑う白い方の少女は笑いすぎてこぼれそうになる涙を拭った。

「うるさい、チェシル!お前らどっか行けー!」

メチレンが白い方の少女に怒鳴り、二人を指差して言う。

この二人は過去に歯車でメチレンたちと面識があった。彼女たちは歯車の医療班に属していて、ハイレベルな回復魔法が使えたため歯車にも隠密にも重宝される存在であった。しかしこの二人は最悪に仲が悪く、性格が悪いため問題児でもあった。

よく怪我をしていたメチレンはよく世話になったが、それと同じくらいひどい目に遭っていたため嫌悪の対象であった。

「あれ、なんであんた私の名前知ってんの?」

チェシルと呼ばれた少女は自己紹介したっけ?と首をかしげながら黒い方の少女を見た。

黒い方の少女はルゥを指差した。

「…サン」

「えーーー!」

帽子が脱げて長い赤髪を解き放った状態のルゥ。サンと言われて慌てて髪をまとめて帽子をかぶろうとしたが、帽子はロスメタが握りしめたままだった。チェシルはルゥの顔をマジマジと見ると、

「えー!なんであんたこんなところにいるのー?ちょっと待って待って、っていうことは、この怪我してる女、もしかしてぇー」

グィッとメチレンの顔を覗き、驚いて二、三歩後退る。

「あーーー!スイじゃん!!なんでなんで~?なんでこんなところにいるのよー!っていうか女装?なんでなんでー?」

「…チェシル、うるさい」

黒い方の少女が至極不快そうな顔をして言う。

「マリーテル、うるさい!」

マリーテルと呼ばれた少女にバカにされたチェシルは憤慨するが、それをマリーテルは無視してルゥの濡れた髪をふわふわのタオルで拭く。無視をされてさらにチェシルが怒る。

「あ、相変わらず、仲が悪いんだね」

ルゥがマリーテルを見上げて苦笑する。

「…こいつとは馴れ合えない」

悔しそうな顔をしているチェシルにマリーテルがさらに言う。

「早くスイの手当てしなさいよ、グズ」

「ムギーーー!!あんたなんかに言われなくてもやるわよ!っていうか、外科はあんたが専門じゃない!あんたがやりなさいよ!」

「あんた…その程度の治療もできないの?」

はぁ…と大きなため息をつくマリーテルにチェシルが怒る。

「で、できるわよ!私の方が優れてるんだから!バカにするんじゃないわよ、マリーテルのくせに!」

マリーテルに文句を言いながらメチレンに近づくチェシル。メチレンの左肩の傷に手をかざし、意識を集中する。

温かい光が傷口を包む。

「ぉおおおお!」

みるみる傷口が塞がっていく。

ぶつぶつなにかを呟いているチェシル。魔法の呪文かと思ったら、マリーテルの悪口だった。

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