タランチュラ 本編

「寒い?」

「寒いから一緒に入っていい?」

 男の下心発言はいつものことなので、気にせず無視をした。

「ねぇ、最近変じゃない?」

「は?」

 女の疑問に男は変な声を出した。

「俺のどこが変なわけ?
 顔良し、性格良し、運動神経抜群…なんか不満でもある?って言うか、俺って実はすごいよね?」

 自分に酔い始めた男に女は呆れた。

「背が低い。頭が悪い」

「うるさいなぁ。気にしてるんだからほっといてよ!!」

 男は拗ねるフリをした。

「…で、冗談はこれくらいにして、俺のどこが変なの?いつも通りじゃん?」

「なんて言うのかなぁ…やさしくなった」

「俺はいつでもやさしいよ?」

「嘘だ」

「…嘘です。でも、お前以外に優しくする気はないよ?」

 女にはそのときの優しく微笑んだ男の顔が見えなかった。

「…知ってる」

 女は照れ隠しで、湯に半分顔を沈めた。

「ところでこれからしますかね?
 下手に動けばヤバいよ?」

「この白い温泉は惜しいけど…明日この宿を出ましょう。面倒ごとは嫌だもの」

 女は白い手で湯をすくい、じっと名残惜しそうに見つめた。

「ここ、飯が美味かったんだけどなぁ~」

「「はぁ~」」

 2人は同時に大きなため息をついた。月だけが彼らの会話を聞いていた。

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