タランチュラ 本編



 カビ臭いジメジメした空間。懐かしいような、気分を害す臭いにルゥはゆっくり目を覚ました。

「やぁ、お目覚めかい?」

 鉄格子の小さな窓から覗くうっすらとした月明かりがルゥを照らす。わずかな明かりと声で、声の主はすぐにわかった。

「ロスメタ…」

 その名を呼ぶと、ロスメタは慌ててルゥの口を塞いだ。急なロスメタの行動にルゥは戸惑った。

「シっ!その名を呼ぶなっ!!」

 ロスメタの手で鼻と口を強く押さえつけられたルゥはモゴモゴ訴える。聞き取れないロスメタは謝りながら手をゆっくり放した。

「すまない。ここではできるだけ小声で話してくれよ…」

「…プハっ!何をするんだ?だいたい名前を呼ぶなってどういうこと?
 そもそもここはどこなんだ?」

 ルゥは少し睨みつけるようにロスメタを見た。
 ロスメタはめずらしく真面目な顔つきになった。いつもの過剰動作もない。

「ロスメタという名はここでは死んでも口にするな。
 ここでは僕をノヴァムと呼んでくれ。これが僕の本当の名だ」

「ノヴァム?!」

 ルゥは思わず大声でその名を呼んだ。再び、ロスメタがルゥの口を押さえる。

「声が大きいっ!頼むよ、メチルくん」

 どこか落ち着きがないロスメタに、状況が理解できないルゥはとりあえず謝った。

「ごめん。でも、ノヴァムって…」

「ははは、君の言いたいことは分かる。でも、その話はここから脱出できてからだ」

「脱出…?ここは一体…?」

 ルゥは辺りを見渡した。月明かりしかないこの空間は、薄暗く、目が慣れてきた今でもよくわからない。

「牢屋…なのか?」

「そう、ここは罪人を閉じ込めていた牢屋。そしてこの建物は…今は使われていない監獄だ」

「?!」

 ルゥはなぜそんなところに自分がいるのか分からず、驚きを隠せなかったが、冷静にここに来るまでの記憶をたどることにした。



0
  • しおりをはさむ
  • 9
  • 0
/ 151ページ
このページを編集する