タランチュラ番外編 ラビット物語

第二章 /嫉妬

「ルゥ~、怒ってるの?」

空き家を一件宿代わりに貸してくれた。
少しほこっているが、子どもが掃除したのだろう。完璧は求められない。それに野宿するより全然マシだ。

二人きりになり、まだご機嫌ななめなメチルの顔をメチレンが覗く。

プイッ

目を合わせてくれない。

「ラビット、逃がしちゃったことまだ怒ってるの?だったらやっぱりひっ捕まえて協会連絡してくるっ!」

下ろしていた剣を手にとり、部屋を飛び出そうとしたメチレンを慌てて引き留めるメチル。

「ちょ、ちょっと待ってっ!!違うっ、そういうことじゃないのっ!」

ずるずるずるずるぅ~

メチレンの服の裾を引っ張るが、バカ力のメチレンを前にか弱いメチルの力では止めれず、数メートル引きずられる。

「ダメ、やめて、違うっ!メチレンストーップ!!」

メチルの叫びにやっと止まるメチレン。引っ張られながら見上げたメチレンはマジで狩る者の目をしていた。
止まってくれたことにひと安心するメチル。

「なに?どうしたの?」

様子の違うメチルに気づいていたが、その理由はわからない。いつもの人見知りとも違う。そもそも人見知りするほど浅い付き合いの相手でもない。

バッ!

メチルは白い大きなベレー帽を脱いだ。サラァ~と赤い長い髪が解き放たれ、少年だったメチルが少女の姿に戻る。

「え、ルゥ、どうしたの?」

突然帽子を脱いだ相棒。脱ぐのはお風呂の時とよっぽど安心できるところで宿泊した眠るときだけ。不用意に脱いだりしない相棒の奇っ怪な行動にただただ驚くばかりだ。

ぎゅっ!!

帽子を投げ捨て、メチレンの胸に飛び込んだ。

「えっ!?」

ブリーズするメチレンの胸に顔を埋めるメチル。メチレンはもう何が起こったのかわからない。とにかくたじたじだ。

「め、め、め、め、めちるさん?どどどどど、どうしたの?!」

二人は耳まで真っ赤に染めた。

「…ごめん」

メチルがメチレンの胸に話しかけた。

「?」

謝られる意味がわからないメチレン。

「ルゥ、悪いことしたの?」

コクりと頷く。

「何したの?」

メチレンはメチルの両頬を優しく掴み、見つめあった。メチルの赤い瞳にはメチレンが映り、メチレンの青い瞳にはメチルが映った。
顔を背けられないメチルは見つめられることに耐えかねて、目線をそらして、言いにくそうに話始めた。

「リ、リンがレンにくっつくの、前から嫌なの。今日もピッタリくっついてた…」

メチレンは思い出す。言われてみれば、リンは自分によくボディータッチをしてくる。それは、懐かれているからだと思っていたが、メチルにはそう思えなかった。メチルにはない柔らかな胸をアピールするように押し付けてくっつく姿は、懐く…というよりは、アプローチだ。
それは『歯車』時代から続いていた。

無口なリンがメチルにはない色気でメチレンを誘惑している、ずっとそのプレッシャーを感じていた。

「リンはレンのことが好きなのっ!でも、それは嫌なのっ!今も昔も私はそれが嫌でたまらないの!レンがリンに取られるの、嫌なのっ!」

はぁはぁはぁ…心にたまっていた不安を、大きな声で叫んで息が上がる。

「あ、やだっ…私…」

叫んですぐにメチルは顔を両手で隠した。すごく身勝手なことをメチレンに打ち明けてしまい、後悔するが、もう発せられた言葉は引き戻すことはできない。

メチルは恐る恐るメチレンの目を見た。軽蔑されていないだろうか。何勝手なこと言ってるんだと呆れられていないだろうか。
その答えは次のメチレンの行動で返された。

ぎゅっ…

メチレンはメチルを抱き締めた。

ぎゅぎゅぎゅー

徐々に強まる力。心地好さから痛みに変わってくる。

「い、痛いっ…」

馬鹿力メチレンに力のまま抱き締められたら、それは拷問でしかない。

「ご、ごめん」

メチレンは力を緩め、抱き締め直す。

「…それって、焼きもち…だよね?」

耳元でささやくメチレンの声。くすぐったいのか、図星を当てられ恥ずかしいのか、顔を隠すメチル。否定はしない。

「ルゥのばかー。俺はいつでも、どこでもルゥ一筋だよぉー」

チュッ

メチレンはメチルの耳にそっとキスをした。

とろけるように膝がおれるメチル。

「ぎゃー!ルゥ!ルゥ!大丈夫?!」

顔を真っ赤にしてぼーっと意識がとんだメチルのそばで、メチレンが大慌てで騒ぎまくった。

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