タランチュラ番外編 ラビット物語

第二章 /歯車 クモとウサギ



「おかえりー、うさぎも仕事だったのー?」

任務完了の報告を「隠密部隊」にした帰り、廊下で元気な声がかかる。金髪の長髪を無造作に束ねた10歳くらいの少年スイだ。その横で同じ年くらいの長い赤髪が美しい赤目の少女サンの姿があった。

「あぁ、蜘蛛か」

マグとリンのペアのコードネーム、ラビットをうさぎと呼ぶスイとそのペアのサンのコードネームはタランチュラ。蜘蛛とも呼ばれていた。

「そうだよ、国境線のやつ」

「あー、俺たちもそれ行ったことある。また攻めてきたんだ。懲りないねー」

三つの国に隣接した国境線は常に狙われて、その都度防衛に歯車は派遣されていた。

「もういっそうのこと、再起不能なくらい潰しちゃえばいいのにね」

無邪気にこどもが話すことではないが、ここではそれが普通であった。

「そうしたら俺たちの仕事減るのにね」

「まあね。でもそれじゃあ、俺たちのおまんま食い上げだよ」

口を膨らませるスイにマグは苦笑した。

「蜘蛛は仕事終わったの?」

「んー今日は休み。今からランチ。明日からしばらく遠征。嫌になっちゃう」

「ご苦労様」

「そうだ!マグも一緒に食べようよ」

スイが無邪気にランチに誘う。隣でサンがうなずいている。

「いいけど…」

マグは土埃と血で汚れた衣服をちょいと持ち上げ、苦笑した。

「先にシャワー浴びてくる」

「そうだね。ばばちぃね」

「じゃ、また後で。リン、行こう」

長身のマグの後ろに隠れていたリンが無言無表情でマグに付いて去っていった。

「リン、ちっちゃくて見えなかった」

二人の背を見送りながら、スイがサンに言う。

「俺もいつかマグみたいにサンが隠れるくらい大きい男になりたいなー。
そしたら、かわいいサンを誰にも見せずに隠せるのに…」

スイのサンへの異常な愛情思考にサンはドン引きだ。

普段は無邪気で明るい子どものスイだが、幼馴染みでパートナーのサンに対する愛情は自他ともに認めるほど深かった。

サンは歯車に来てから精神的な要因で言葉を失った。人見知りもあり、なかなか慣れることができなかったのでよく歯車内でいじめられていた。
スイがいじめっ子をボッコボコにいじめ返して当初は解決に導こうとしていたが、慣れてくるとサンの豊かな表情や優しい性格をみんな知り、自然とそれを解決した。
その一方でサンの魅力に手を出そうとする輩が出現するようになり、それがスイの怒りに触れ、ボッコボコにされるパターンが増えた。
サンには手を出すな。これが歯車内での暗黙の了解となった。

「さーて、食堂行こう!」

スイはサンの手を引いて走った。

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