タランチュラ番外編 ラビット物語

第三章 /共食い

「と、共食いってどういうこと?人が人を食べるってこと?!」

メチルはまさかの返事に驚き、語勢を強める。
あの少年の無惨な骸は人間のできる殺し方ではなかった。獣に襲われたと言われれば納得できたが、素直に頷けない。
マグは頭を抱え、悲しく微笑んだ。

「あの子たちは、何に見える?」
「え…?」

質問の意図がわからない。でも、このタイミングで聞いてくるということは犯人は子どもたちだと言うことなのか。

「普通の子どもに見えるだろ?」

マグが言う。メチルは黙って頷いた。

「そう、あの子どもたちはみんな普通の子どもさ。とてもいい子達なんだよ…」

マグの顔が歪む。

「昼の顔はね…」
「昼の顔…?」

マグの言いたいことがわからない。

「あの子達は戦争用に改造されたキメラなんだ」
「キメラ…?」

キメラ…異質同体、ひとつの個体に異なる遺伝子の融合。召喚獣より現実味がない。
いまひとつ理解できないメチルに、マグはこの村に来た経緯とこれまで知り得たことをポツリポツリと話始めた。

この村は、この国の裏で暗躍する『隠密部隊』がかつて作った実験場だったそうだ。しかし、実験の非効率性から切り捨てられ、廃村と化した。

まずその時点でメチルの目付きが変わる。憎しみに満ちた表情。
幼少期を『歯車』という殺し屋組織で育ったメチルたち。それを管轄していた『隠密部隊』は憎悪の対象でしかない。その『隠密』が関わっていたというだけで、最悪な印象を受ける。

『隠密』が撤退した後、国家転覆を目論む別組織がその研究を引き継いだと噂された。

今回、マグたちがこの村に来たのは、この村の実情の調査と把握だった。
彼らがこの村に来たときは、大人たちばかりで逆に子どもの姿は見当たらない一見平和な村だった。しかし、それは表の顔。
その研究成果があの子どもたちだった。

彼らは地下牢にいた。日の光を浴びることなく、繰り返される実験と訓練を耐えていたという。

メチルはこれと似た環境を知っている。幼少期に過ごした『歯車』を思い出す。

「そう、ここは『歯車』をモデルとして作られた実験施設だったんだ」

メチルは驚きすぎて声がでない。

「信じられないだろう?
俺たちは俺たちが一番不幸だと思っていたけど、俺たちと同じ…いや、今もなお苦しんでいるんだから俺たち以上かもしれない不幸がこの世界にはまだ存在したんだ」

おぞましい過去を思い出し、身が震える。

「俺は耐えられなかった。まるで、あのときどうすることもできなかった『歯車』の子どもたちが助けを求めているような気がした…」

あのとき…それはおそらく、世間で言われるタランチュラ事件のこと。
前国王政権崩壊とともに悪の代表として『歯車』は表の舞台に存在を知らしめ、矢面に立たされた。ラビットを含む手練れの『精鋭部隊』の多くは極秘で処刑前に逃げていたが、『訓練部隊』のまだ幼い子どもたちのほとんどは、逃げることなんてできず、大人たちの勝手な都合で自由を奪われ、地獄の日々を送り、その短い命を処刑という最悪の汚名を着せられ殺された。
あのときはどうすることもできなかった。自分たちのことで精一杯だった。逃げた者たちも…あの場で使命を果たしたタランチュラたちも。

だが、心優しいマグはずっと心残りだったようだ。

「俺はある夜、これ以上見ていられなくてとうとう子どもたちを逃がした。
子どもたちは俺について来た。なにも知らずに俺を信じて付いてきた…」

マグの表情が一番辛い顔に変わる。

「一緒に走ったが、子どもの足では遠くまで逃げられなかった。
とりあえず村はずれの空き家で夜を明かすことにしたが、夜中にそれは起きた。
子どもたちが寝静まったと同時に起きた異変。
子どもたちは見たこともない化け物に姿を変えたんだ」

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