タランチュラ タラレッドその後

第二章 /(回想編)リトマス


「ブロモちゃーん」

赤髪赤目の少年が手を振りながら走ってくる。彼の名はリトマス。幼馴染みだ。

私の生まれた村は山に囲まれた何もない質素なところ。でも当時はここしか知らない私たちはそれが普通で退屈なところだとは思わなかった。

子どもというのは、なんでもそこにあるもので遊びを開拓していく天才で、木があればそれに登り、花があればそれを摘み、石ころがあればそれで絵を描いたり、並べたり、お金や食べ物に例えてごっこ遊びをしたり、投げて怒られたり…。なんでもやった。

幼いながら年上の子どもに遊んでもらったようなぼんやりとした記憶があったような気がしたが、気づけば子どもは私と彼と病弱な彼の姉しかいなかった。

リトマスはなよなよした大人しい男の子。いつも私に金魚の糞みたいに付いてきていた。

「リトはとろいから、付いてこないでっ!」

どんくさいリトマスを子分だと思っていた私にリトマスはいつも文句を言わず付いてきた。

「ブロモちゃん待ってよー」

後ろを数歩下がったところでリトマスが付いてくる。私は彼が付いてきていたのを知っていたけど、知らんぷりして山に入った。
山と言っても村の近くのいつも遊んでいるところ。子どもだけで遊んでも怒られない場所だった。

「今日は木に登るの!リトは登れないでしょ?だから帰りなさいよ」

木登りができないリトマスはバカにされても特別怒ることも悔しがることもしない。

「じゃあ、僕はここでブロモちゃんが降りてくるの待ってる」
「ふんっ」

私は知らんぷりをして木によじ登った。リトマスは下から見上げているだけ。つまらない。一緒に登れたら、この高いところから見渡せる連なる山々の景色や私たちの村がよく見えるのに。

「ブロモちゃーん、もう帰ろうよ!」

リトマスが叫ぶ。

「雲がもくもく出てきてるよ。雨が降るかもしれないよーっ!」
「何言ってるの?こんないい天気で雨なんて降るわけないじゃん」

空にはまだ青空が見えている。私はリトマスの言うことは信用せず山を見ていた。あの山の向こうは何があるのか、想像するだけで楽しい。

「ブロモちゃーん」

邪魔するリトマス。先に帰ればいいのに彼はいつだって私を一人にしない。仕方なく木を降りた。

「もーっ、リトの弱虫っ」
「えへへ、降りてくれてありがとう」

リトマスはバカにされていても平気で笑う。しかも、謎のお礼。意味わかんない。

「フンっ、帰るっ!」

私がリトマスに背を向け、帰ろうとしたときだった。

ゴロゴロゴロ
ドッカーンっ!!

音と同時に起きる衝撃に私たちは振り返る。

バチバチバチ

「ひっ!」

さっきまで私が上っていた木にまさか雷が落ちた。木はまっぷたつに裂け、火が上がる。

何が起きたのか理解する前にザーという轟音。

どしゃ降りの雨に濡れながら、私は驚きと恐怖に声をあげて泣いた。リトマスはじっと私の服の裾を握り、黙ってそばにいた。

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