タランチュラ タラレッドその後

第三章 /訪問者



コンコンコン

硬い鉄を叩く音が響き、現実に引き戻される。
眠っていたのか。
熟眠感はない。うたた寝程度の浅い眠り。なのに長い夢を見ていたような気がする。覚えのない涙の跡が頬を伝っていた。

それを拭い、椅子に任せていたからだを起こす。

この汚い天井を見ていると、久しぶりに懐かしいことを思い出した。
『歯車』の天井によく似ていた。まぁ、国家賞金稼ぎ協会自体『隠密部隊』の組織の末端。親組織が同じなら、似ていても何ら不思議じゃない。

丁寧なノックのあとに、扉が開く。
レインの気配ではない。レインの独特な気配は数メートル先からだって分かる。

「誰?」

ブロモは目を擦りながらドアの方を見た。

「………」

薄暗い牢屋の中。明るい扉の向こうから現れた人物の顔は逆光でよく見えない。目を凝らす。

「今回は思いきったことをやらかしたな」

低い男の声。よく見るとこのシルエットは見覚えがある。
目がだんだん慣れてくる。

「………ンド?」

私は身を乗り出した。

「久しぶりだな、元気にしていたか?…と、言うか元気にやりすぎだな」

近づいて来る男をブロモは知っていた。

「ウィンドーっ!!」

ブロモはただ再会の喜びに男に飛び付いた。

「わっ!」

飛び込んできたブロモの勢いに二、三歩後退るが、しっかり受け止める。

「お前はもう子どもじゃないんだ、おっさんにはこの衝撃は堪えられないからやめなさい」

ウィンドの胸の中に顔をうずめた。変わらない頭をクシャクシャ撫でる大きな硬い手。広いゴツゴツした胸、力強い鼓動。優しい声。
ウィンドの温もりに安心したブロモはゆっくり見上げた。青い目が見てくる。穏やかに微笑む変わらない表情は少し老けた気がした。

「ウィンド、少し老けたね」

ブロモがニッと笑うと、ペシンッと頭をはたかれた。

「そりゃ、10年も経てば老ける。お前は相変わらずの口の聞き方だな」
「10年も経ってないし」

ブロモが口を膨らませる。ブロモが『歯車』を抜けて以来だから、直接会って話すのは七、八年ぶりだろうか。

「ははは、おっさんになると5年も10年も一緒だ」

頭を撫で続ける大好きな大きな手。ブロモは自身の両親のことはほとんど覚えていないが、ウィンドには父親のような親しみを感じていた。
目尻のシワを指でなぞる。苦労しているのだろうか。

「シワをなぞるな」

ブロモの指を優しく払うウィンド。

「からだは正直だね」

年月が経ったことを実感する。

「そうだな。外見もだが、年々動きが悪くなる。年はとりたくないものだ」
ウィンドは苦笑した。
「レインちゃんは老けないよ?」
「あいつは、昔から変わらない。…と言うか、昔から外見は老けていたが、とうとう見た目より実年齢が上回ったから若く見えるんだ」

ウィンドはレインの変わらない外見が時々うらやましい。特に、ここ数年、最前線を離れてからというもの、ストレスから解放されたのか生き生きし、さらに若返ったような気がする。

「いいじゃん、若く見える奥さんっ!」
「ははは、時々同い年の自分が惨めだよ。俺ばっかり年を取るんだからな」
「えーウィンドは年を取ってもかっこいいよ?」

から笑いするウィンドに、ブロモがキュルルンと澄んだ瞳で見つめる。得意の上目遣い。

「大人をからかうな」

あっさりスルー。それでもめげないブロモ。豊かな柔らかい胸を意識してウィンドに押し当てる。

「からかってないもーん!それに、私もう25歳だもんっ、大人だもん!」
「お前はいつまでも子どもだよ」

わしゃわしゃ撫でる。押し当てられた胸に少しでも意識しようものなら、いつでも誘惑してやろうと思っていたが、撫でられるのは胸ではなく、相変わらず頭。髪が乱れる。

「子ども扱いしないでっ!」

ブロモはウィンドの手を乱暴に払った。こうなれば実力行使あるのみっ!

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