タランチュラ タラレッドその後

第三章 /追撃者



「ふー」

三人娘の話を聞いて帰したあと、テルミットは会長室の自分のデスクで調書を作っていた。
一段落したら今日は早く上がろう。だってメチル(レッド)に会えるのだから。
心踊るテルミット。目標があれば、仕事も手もはかどる。

ガチャ

ドアが開く。
テルミットはここにノックもせずに入ってくる人を一人しか知らない。

「おかえりなさい、レインさ…ん?」

顔をあげながら思い描いた人物の名を呼んでみたが、固まる。

「やっほー」

血糊が付着した棍棒を片手にやんちゃな笑顔を向けるのは、もちろんこの女。ブロモチモール・ブルー、その人だ。

「な、な、な、なんでここにいるんですかっ!?」

驚くしかないテルミット。ブロモがここに現れることもそうだし、謎の棍棒に謎の血痕。すべてが謎だ。

「れ、れ、れ…レインさんはっ!?」

ボスはどこへ?拘束されている筈のブロモがなぜここに?頭のハテナは増えるしかない。

「レインちゃんは夫婦喧嘩のしてたよぉー」

ドカッと会長椅子に座るブロモ。

「ふ、夫婦喧嘩?」

意味がわからない。

「それより、お菓子とお茶くらい出しなさいよ」

バシバシとデスクを叩いて催促するブロモに、しぶしぶテルミットは従う。
普段お客さんが来たり、ティータイムに用意するお茶は給湯室で準備するが、いろんな情報が詰まっているこの部屋にブロモを一人残してはいけないと思うテルミット。

「インスタントでもいいですか?」

機転を利かせ、インスタントならケトルがあるので、すぐにこの部屋で用意できる。

「えー!お客様なんだからおいしいのがいいのにー」

棍棒を持ったお客様は、強盗にしか見えない。

「仕方ないな~超絶甘くしてね」

妥協案を提示し、テルミットはコーヒーを入れた。インスタントだが、ドリップ式でなかなか味わい深くておいしいとレインも納得の品だ。

「わからないので、お砂糖はご自分調節してくださいね」

コーヒーとミルク、角砂糖が入った入れ物を渡す。

「ありがとっ!あとお菓子も早くね」

角砂糖をミニトングで摘まみながら言う。

ポトン…ポトン…ポトン…ポトン…ポトン…ポトン…………

お菓子を準備しているテルミットの耳に何度も繰り返される水が跳ねる音。
振り向くと一個一個角砂糖を摘まみながらコーヒーに落としている。

「一体何個いれたんです?」

想像しただけで口の中が甘い。

「知らなーい」

ありったけの砂糖を入れるつもりだ。数えるつもりはない。

せっかくのコーヒーの風味も台無しだ。

「そんなに入れたら太りますよ?」
「大丈夫大丈夫っ!栄養は全部おっぱいに付くから。食べないとおっぱいが痩せて垂れちゃうでしょ?」

でしょ?と言われても、垂れるほどのふくよかな胸を持たないテルミットはその原理を素直に納得できない。
そもそも、脂肪は付けるところを選べるものなのか?

さりげなく巨乳を自慢され、ムッとしながらテルミットは冷蔵庫に冷やしていた手作りのプリンをお皿に乗せ、差し出す。

本当はレインのおやつだったのだが、今日はブロモ捕獲に出ていたため、テルミットはおやつの提供ができなかった。きっと仕事ばかりしておやつにまで気が回らなかったであろうレインの姿が思い浮かぶ。
もうこの時間になれば食べないだろうと、ブロモに提供することにした。

「わープリンだぁ!」

子どものように喜ぶ姿に作った側としては嬉しい反応。
プルンプルンと揺れる絶妙なバランスを保つプリン。見てて飽きない。

一匙すくい、パクリ。

「おいしーぷるぷるーっ!」

歓喜の声が上がる。

「よかったです」

やっとここで初めて笑いかけるテルミット。ブロモの顔もほころぶ。

「テルテルちゃん、美味しいものをくれたから、恩返しをしてあげましょうっ!」

ペロッと食べてごくっと飲みきったブロモはチョイチョイと手招きをする。

「なんですか?」

怪しみながらも寄ってみる。棍棒はデスクに立て掛けられ、手に取る気配はない。

「いいから来なさいよ」

早くしろと言う圧をかける。テルミットはブロモの隣に来た瞬間だった。

「きゃぁぁあああああああああああああっ!!!」

テルミットの悲鳴が建物全体に響き渡った。

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