タランチュラ タラレッドその後

第一章 /判決


「貴様は本来、死刑だ!」 

一瞬の間。

「へー」

ブロモは自分の爪を眺めた。今朝の戦いで爪先が欠けて一部マニキュアが剥がれていることに気づいた。爪やすりがないので、とりあえずカリカリと自分の爪で引っ掻き、爪を整えようとする。

「それで、私はどうなるの?
首が跳ねられちゃうの?それとも括られちゃうの?
毒だったらおいしいのにしてね。
沈められるのは勘弁!きれいに死にたいからね」

視線は常に爪先に集中している。
死への恐怖はない。そんなものは幼少期に捨ててきた。さらに、死んだあとリトマスに会えるなら死など怖くない。

ただ、彼に生きろと言われたので自決はしない。だが、殺されるのに理由があるなら、それは受け入れるつもりだ。
唯一心配なのは、死後の姿のみ。醜い姿でリトマスに会いたくない。その想いだけだった。

「…貴様はよくわからんやつだな」

レインは少し動揺するブロモが見たかった。たが、ブロモの強がるでもなく、抵抗するでもないその態度は面白味に欠ける。 

「?」

爪を整えながらチラッとレインを見て、呆れる彼女の姿に首をかしげた。

「本来は死刑を言い渡されても文句を言えない立場だが、貴様はもうひとつの協定で有事の際は国家に尽力する役目を担っている。
貴様ほどの戦力を無くすのは我が国の損失だ」

「それは褒めてくれてるの?」
「そうだ!」

レインは紙をクシャッと丸めた。

「それ、丸めていいの?すんごい難しい判子押してたんだけど」
「かまわんっ!こんなもの、ただの紙切れだ」

レインはポイっと投げ捨てた。

「じゃあおとがめなしってこと?」

ブロモはもう帰れると思ってにやつく。

「そうはいかんっ!」
「やっぱり?ケチー」

ブロモが口を膨らませた。

「ここでこちらが甘い顔をすれば、貴様はまた同じ過ちを繰り返すだろう。今回は国家を脅かす重大な事にならなかったが、次はどうなるかわからん」
「そんなことしないわよー」

手を顔の前にかざして、爪がキレイに整ったことに満足気なブロモが、レインの心配の種に興味無さそうに言う。

「それに貴様をここで許せば、示しがつかん。よってこれより、貴様に執り行う罰を言い渡す!」
「優しくしてねー」

気の抜けるブロモの返事。

「手を出せ」

レインが静かに言う。

「…まさか」

ブロモが顔をひきつらす。

「そうだ。貴様から本気の反省の言葉が得られるまで、爪を一枚一枚剥ぐことにする」

ブロモは自分の手を庇うように引き寄せるが、レインはその手を掴み、逃がさない。

「ひどーいっ!せっかくキレイにしたのにっ!」
「貴様が気にするところはそこかっ!?」

反省の色を見せないブロモにレインが苛立つ。

「あったりまえでしょ?今、超集中して整えたところなのに!
やるならもっと早くに言いなさいよ!」

ご機嫌ななめになるブロモがレインの手を振り払った。

「だいたい、あんたも知ってるでしょ?
こども(『歯車』)のときに散々されてきたんだもの。
今更爪剥がれても、鞭打ちされても、殴られても、犯されても、何とも思わないわよ」

ベーと舌をだし、そっぽを向いた。
頭を抱えるレイン。『隠密』の教育が痛みを恐怖と思わないこの兵器を作り出したことを改めて実感し、何とも言えない気持ちになる。

「では、この手だけは使いたくなかったが…」

レインは苦渋の決断をした。

「これより三ヶ月…いや、一ヶ月間、貴様はテルミット監視下に置くことにする!」

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