おれは魔王、弟は勇者。

作者トマちー

俺が勇者なら、お前が魔王なら、何が変わるだろうか。




魔族と人類が共存、仲良く暮らすだって?

それを望むのは俺とお前だけだ。

だいぶ乱暴に扱われたせいで、身体中あこち痛い。

手枷もサイズがあっておらず、指が痺れている。

暗いからよく分からないけど、弟も多分まだ生きてる。けど動かないから、そっとしておこうと思う。


生臭いし、床が冷たい。




ここがどこなのかは分からないけど、なにをする場所かはさっき分かった。

人の売り買いをしてる場所だと思う。

人身売買というやつだ。


おれたち兄弟もきっと誰かに買われるのだろう。

…というのも一度は捨てられているわけだから、売られるのも同じようなものなのだ。




かたいくつの音が聞こえる

誰か来たようだ。


よく聞くとたくさんの、床をこする砂のような音も聞こえる。なにかの集団だろうか。


おれたち兄弟はこの人達に買われるのだろうか。



「この牢ですか?」


「はい。161と163はこの子供たちですが…いかがなさいます?」


162は誰だ?


「その寝ている子の額を見せていただけませんか?」


「はいわかりましたー」


このかたい靴の男、片手で弟を持ち上げるくらいだから、相当な怪力だろう。


「おお!!この額の傷跡は…!」

「間違いない!この子こそ勇者の血を継ぐ子供に違いない!!」

「勇者様!勇者様!」


え?


「お支払いはこちらで…」


おれは?


ちょっと待てそいつは勇者とかじゃない

おれの弟だ


離せ

連れて行くな


待てよ


その時大きな地鳴りが響き渡る。


「ひっ…こっ…こちらの子供を御所望でっ…??」


かたい靴の男が怯えている。

それよりおれの弟を…




臭い匂い。

先ほどの腐敗臭というよりは生乾きの匂いに近いのかもしれない。


どうやらおれは買われた。しかも弟とは別の相手のようだ。洗濯しないやつだろうか。


また弟と会うのはいつだろうか。会えないだろうか。


おれはこの人と上手くやっていくことが出来るだろうか。


…そんなこと考えても無駄かな。

…眠い…



「起きろ」


低く訛りの効いた声が聞こえる

直ぐに跳ね起きることが出来た。

今朝の目覚めはいい調子だ。


「お前は俺が買った…今日からうちの一族だ…」


ああ

おれは買われたんだったっけ。


「手枷を外してやれ」


「へい」


手枷を外されると、冷たい手先に血が流れ込む。途端に指が痺れてしまった。


「後ろだ…」


後ろを振り向いた。



???


なんだこれ

目の前には青味がかった汚い足

上を向くと巨大な顔。角らしきものが羊のように生えている。

巨人??

そばには比較的小さい、が、やはり青味がかった何かがいる。顔がでかい。


人じゃない。


「今日からお前は魔族の一員だ…」


おれはあまりにも突然すぎる状況に、

ただ、何がなんだか分からなかった。