生贄のイヴ姫【完】

棘の檻 /揺らぐ死神





……自分の隣で静かな寝息を立てている女性を、ファイは無言で見つめていた。



触れるのを躊躇してしまうほどの白い肌に、快楽に鳴いていた薄桃色の唇。

しっとりと汗ばんだ体はゆっくりと冷めていって、落ち着きを取り戻している。

白い肌とは対照的な漆黒の長髪。

ゆるいカーブを描いたその美しい髪をしばらく撫で、ファイは彼女を起こさないようにベッドから降りた。




死神の自分には、人間のような欲などない。




食欲も睡眠も性欲も。




生前神に仕え、その人生を捧げた人間である自分は死神になっても、そんな煩悩に囚われることは今までなかった。

だが……



「……リリ」




あの、二人の魂を神に届けようとしたあの赤い満月の夜。

ファイはそこでリリと出会った。




アノ人の死体を前に佇む麗しい生け贄。

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