その手が離せなくて 【完】 

第2章 /歩いていく



「忘れ物ない?」


紅茶を飲み終わった私に、目の前の萌が問いかける。

その言葉に小さく笑って、腕時計に目を落とした。

そろそろだ、と思って。


「あったとしても、あっちで買うから大丈夫だよ」

「そっか・・・・・・そうだよね」


海外じゃあるまいしね。と言って笑った萌にニッコリと微笑み返す。

そんな私を見て、萌は視線を伏せた。


「だけど、九州なんて海外みたいなもんだよ・・・・・・」

「――」

「簡単に会える距離じゃないじゃん」


小さな唇を尖らせた萌は、まるで駄々をこねる子供の様に見えて可笑しくなる。

だけど、そう思ってくれた事が嬉しくて思わず頬が緩んだ。


「長期休暇の時は帰ってくるよ」

「――」

「帰ってきたら、また飲みに行こう? ね?」


そう言って萌の顔を覗き込んだ私に、萌はキッと視線を上げた。

大きな瞳は私を真っ直ぐに射抜いて、思わず出しかけた言葉を飲み込んだ。



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