その手が離せなくて 【完】 

第1章 /雨と傘



「疲れた・・・・・・」


長い打合せを終えて、ようやく帰路につく。

仕事疲れなのか何なのか分からないけど、なんだか妙に疲れた。

両脇に大量の資料を抱えて深い溜息を吐きながら、会社のエントランスを抜ける。

大企業ともなれば、エントランスまでもが洗練されていて、さすがだなと思う。

そんな事を思いながら、大きなガラス張りの自動ドアを抜けた瞬間、思わず動かしていた足が止まった。


「嘘でしょ」


ポロリと零れた声を掻き消す程の雨。

真っ暗になった道には、突然の雨に慌ただしく走る人の姿が見えた。


「誰よ。今日は青空が広がるでしょう。って言ったの」


天気予報を信じて、もちろん傘なんて持ってきていない。

この会社に置き傘くらいはあるだろうけど、取引先に借りるのはなんとも気が引ける。


それに、両脇には抱えきれないほどの資料。

傘をさして歩くには、濡れる危険性がある。

だからと言って、タクシーで帰るなんてそんなリッチな事できない。



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