支配者【完】

夫婦 /呆れと温かさと




雫が初日に選んだ場所は、映画館だった。


「観たいものがあるわけじゃ、ないんですけど、」


と少し、俺の顔色を見るように上目使いで言った雫は、俺が目を合わせただけで、視線を右に左に、忙しなく動かした。


どうやら、ちょっとした”思惑”があるらしい。


「玲様、場所は押さえております。」

「お前、ここに居ていいのか?」


先ほどから部屋の隅に控える地平と海渡は俺の言葉に一瞬、"不満”を顔に浮かべたのを見逃さなかった。


しかしすぐに、2人共それを消してしまう。


「こうなったら、俺も楽しもうと思いまして。」


半分やけくそで言っているのか。地平の言葉に少々の険がある。

この1週間の俺のスケジュールを空けるためのこいつの苦労は分かっているから、致し方ないとも言えるが……


「場所は?」

「っっ、ご案内します。」


それより今は、雫との楽しみだ。


「もう、玲?」

「なんだ。」


怒ったような雫の声音に視線を向ければ、声の通りむくれている雫が俺を睨んでいた。


その程度の睨みでは、俺を刺激しかしないというのにだ。


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