366

366日、彼らは笑う。 /6月6日 梅の日 玲×雫×地平×旭

side 玲



「雫のところへ行く。」



誰もいない。狗カミだけが存在するこの部屋で呟いた言葉は空気に溶け込んでいく。


立ち上がり、天空からの一筋の光だけが存在する薄暗い部屋を進んだ。


すると俺の手が触れる前に狗カミを彫った木の扉が静かに開く。先ほどの俺のつぶやきを聞いた地平が待機していた。


「雫様は、」

「いい。居場所は分かっている。」

「は。」


歩き出せば、地平が俺の後ろに従う。そしてどこからともなく、蒼羽も姿を現しついてきていた。


俺の足は、自然と雫のいる場所へ向かう。この季節、雫の気に入りの場所がある。


俺が狗カミとして玉座に座る間、雫はそこで俺を待っている。約束をしたわけではない。しかし俺は、雫がどこにいるのかを知っていた。


広大な敷地内には、雫が足繁く通う植物園がある。そこの一角。なんとも華々しさのない木が、そこで最盛期を迎えていた。


「雫。」


その前に佇む女は、子を産んでも美しさは衰えず、笑みは少女のようにたおやかだった。


「父様。」


その雫と手を繋ぎ俺を笑顔で出迎えるのは、狗カミの化身。



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