366

366日、彼らは笑う。 /7月第3月曜日 マドレーヌの日

Side 弘人



ふと、目が覚めた。

もう当たり前になってしまった木の天井。今日もここで目覚めたことにホッとしている自分がいる。


香るのは、何か焼き菓子の匂い。咲が今日の一品を焼いているのだろう。


「はぁ。」


ほんとに、ため息が出る。

こんなに穏やかな朝を自分が迎える日が来るなんて。


朝は、酷い不快感に襲われるのが常だった。


隣に寝ている日替わりの女の子たちは不快な行為を思い出させるだけで、笑顔でおはようと言う彼女たちに自分も笑顔で返す、そんな当たり前のことに更に不快感は増すばかり。

時折、彼女たちを思い出す。


愛したつもりで、傷つけていた彼女たちを。


矛盾した関係で成り立っていた。それでも彼女たちは俺を愛していたと言うだろう。


馬鹿馬鹿しいことだと思っていた。だけどきっと、彼女たちよりも俺の方が、大馬鹿者だった。


「弘人、起きた?」

「…ん。」



扉が開く。姿を現した咲は、柔らかい笑顔を俺に向ける。


「今日はマドレーヌなの。朝ごはんで食べる?」


こんなにも、美しい女を。


「胸焼けするだろ。おやつで食べる。」

「ふふ、分かってる。だからちゃんと和食だよ。」


こんな俺が、愛していいのかな?


「分かってるなら言うなよ。」

「だって、焼きたてが美味しいから。」


お前が作ったマドレーヌ。俺の1番の好物だなんて、咲は言わなくても分かってるよな。


「だから、おやつで食べるし。」

「はいはい、分かってますよ。」


こんなにも最低な俺を、咲は理解し、愛し、包んでくれる。

もう分かっていた。


「なにそれ、感じ悪い。」

「ふふふ。」


結局、惚れた俺の負けなのだと。


0
  • しおりをはさむ
  • 5985
  • 10938
/ 693ページ
このページを編集する