366

366日、彼らは笑う。 /8月19日 バイクの日 密人×茉里

side 茉里



「ん。」

「ありがと。」



仕事が終わって店を出たら、挨拶すら交わさずに密人が私にメットを差し出してくる。


日課じゃない。密人にも仕事があるんだから、それは当たり前。


だけど。


私がメットを被るのを待って、私に手を差し出してくる密人の手を取れば、バイクに乗りやすいように少し強めに手を引いてくれる。


なんだかこれって、お姫様みたい。なんて。いつも照れているのは、内緒。



私が乗り込んだのを確認して、密人がバイクにまたがり、エンジンをかけた。


大きなエンジン音。鼻をつくオイルや焦げ臭い匂い。目の前の密人の背中を見ながら、腰に手を回せば。


ぎゅ。



密人が、私がきちんと捕まっているか、"確認"する。


大きな音で声が聞こえない中、密人が無言でするそれは、密人の気持ちを感じさせてくれる。



心配してくれている。その気持ちが嬉しい。そして、抱きついた密人の背中の温もりが、彼がここにいるという証拠になるから。



「密人のバイクに乗るの、好き。」

「あ?」



風と音で、聞こえないから。


「生きていてね。」

「なんだ?」



密人の仕事を考えて、言いたくても言えないことも言える。



いつもありがとう。


好きだよ。



ありきたりな言葉は言えるけど、どうしても言えない言葉がある。そんな時は、彼の背中で。



0
  • しおりをはさむ
  • 5984
  • 10936
/ 693ページ
このページを編集する