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366日、彼らは笑う。 /10月8日 寒露 玲×雫

side 玲




「寒くないか?」

「はい、大丈夫です。」


季節は秋。見事に赤く色付いた紅葉を見たいと雫に強請られ、朝早くからこの、紅葉を見下ろせる露台まで出てきていた。



「綺麗。」

「ああ。」


雫は花が好きだ。生い立ちからか普段あまり笑わないこいつが、花を前にすれば本当に、花が咲いたように笑う。


しかし今日は、紅葉だからかその笑顔は儚げで、これから草花の衰退していく季節がくるを悲しんでいるように見える。


「私、幸せです。」

「どうした、急に。」



振り返った雫の目尻には涙が。ほろりと零れ落ちたそれは、吐く息が白くなるほどの冷たい空気を滑り落ち、露台から真っ逆さまに落ちていく。



指先で涙を拭えば、ヒヤリと移ろったその水滴は俺の体温に馴染むように溶けていく。


「こんなに綺麗な紅葉を見ても私、寂しくありません。」



紅葉の季節は、なぜだかもの悲しくなる。それは、見事な咲き方に、草花という生命が冬の到来によって終わりを告げることを予感させるからなのかもしれない。


「私は、最後に美しく咲こうなんて、考えたこともなかった。」



腕の中で身を震わせる雫は、温かさを求めてか俺を抱きしめ返す手に力をいれる。


ついこの間までの雫にはありえなかったこと。



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