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366日、彼らは笑う。 /10月14日 鉄道の日 雀×冬陽

side 雀



「窓開けてみろ。」

「うん。」


休みの日。思い立って2人で温泉旅行することにした。もちろん光彦も兄貴も当たり前に連れていかない。



早朝の電車の中はほとんど人がいない。いるとしたら同じ旅行者か山登りの格好をしている年寄りくらいだ。



「気持ちいいなー。」

「ああ。」


季節は7月に入って、少し暑くなってきた時期。早朝に窓から浴びる風は心地よく冬陽の髪を揺らす。



「楽しみだね、温泉。」

「そうだな。」



本当は、車で行こうと思っていた。その方が便利だからな。だけどなぜか冬陽が電車で行くと聞かなかったんだ。



「私ね、電車にいい思い出がないんだ。」

「ん?」


不意に、窓の外を眺めながら冬陽がそう呟いた。おそらくそれは、あの日のことを指しているんだろうと思う。



「だから電車がいいって言ったのか?」

「ううん。車だと雀に悪いなと思って。」

「なんだ、そんな理由か。」

「ふふっ。」



肩を抱いて引き寄せれば、嬉しそうにすり寄る冬陽はまだ窓の外を見ている。悪い思い出を良い思い出に塗り替える。案外それも理由の一つなのかもしれないな。


「ほんとはね、寂しいじゃない。雀、前を見てばっかりなんだもん。」

「そりゃ運転してるからな。」



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