火炉~KARO~第一幕



「どうしました?なんだか不安そうです。」


息を乱す和子が、俺の頭を抱きしめながら呟いた。和子の心地よい声音は耳元から染みわたり、全身に震えるほどの衝動を駆け巡らせる。


「少し、疲れただけだ。」

「……そう、ですか。」


いつぶりだろうか、こんなにも自分を弱いと思ったのは。和子の心地よい体に頬を摺り寄せ、安心しきって目を閉じる。


そんなこと、生まれて一度も経験しなかったことだ。



不快なことなど一切なく、ただ目の前にあるのは愛おしさ。穏やかな感情だ。まるでそれは人間のように、自分を高め、しかし堕落させるものだ。



愛情とは、表裏一体。



安息の地を得たのなら、それを守らなければ自分が終わる。それはとても危険で、今までの俺なら確実に捨て去っていたもの。



王とは、弱みを見せればそこを突かれる。しかしそれ以前に、弱みなど存在しないのが当たり前だ。人間はまだしも我々鬼には、大事にする人間の女などありえず、ましてやそれを……


「和子。」

「はい。」


妻にしたいなど、少し前までの自分なら考えられもしないこと。



「少し、騒がしくなるぞ。」

「なにがですか?」


不安を香らせる和子を力強く抱きしめれば、背中に回る、華奢で小さな手。


手放したくないと思った。



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