火炉~KARO~第一幕

人 /距離

side 和子


「お、鬼だっ、」

「生贄は差し出してるのになんでっ。」



子供は泣きじゃくり、女性は悲鳴を挙げる。母親は子を守り男衆はヤリを持って警戒している。


それを、ジッと馬上から見下ろす鬼たちは、先ほどの朗らかさから一転、どんな感情を見せることもしなかった。



「この村のおさは。」


桜土の抑揚のない声が響いた。


「私です。」


一塊に支え合う人ごみの中から、壮年の男性が一歩前に出た。それを確認した桜土は、火炉に頷いてみせる。



次の瞬間、火炉の馬が歩を進める。真っ黒で綺麗なたてがみをなびかせ、優雅に。


本当に綺麗な馬だと思った。ただ歩いているだけなのに、魅せられる何かがある。それは、火炉にも共通すること。飼い馬とは、持ち主に似るのだろうか?


村長むらおさの前まで来ると、馬は手綱を引かれてもいないのに、きちんと停まった。まるでそうすることが当たり前だと分かっているように。


なんて賢い馬なんだろう。驚いている私を他所に、火炉が話し始めた。


「この村は生贄を旅人で補っているようだな。」

「っっ、」



火炉の低い声はこの場の空気を震わせた。息を呑む村長を前に、火炉がニヤリと口角を上げる。


動揺が走る中、私は感じていた。



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