火炉~KARO~第一幕

人 /人でも鬼でもない

side 和子



ヒラヒラ、ヒラヒラ、蝶が舞う。


「君たちは綺麗だね。」



嬉しそうに頬を緩め雷知が手を上げれば、その指先に数頭の蝶が止まる。


美しい光景。それを私は、火炉の胸の中、馬に揺られながら見つめていた。


「綺麗。」

「ん?」



火炉を見上げ、また雷知を見た。


雷知の周り、いえ、私たちの周りを舞う冬の蝶たちは、綺麗な羽に冬の温かな日差しを反射させ、キラキラと煌めいている。


死の象徴である鬼の周りを、蝶が舞う。生命力に溢れた、命の輝きだ。


私は、生きている。


自分が誰であろうと、私は、生きているのだと。


「火炉。」

「なんだ。」


この、生を食べる鬼の腕の中で、自分の命を噛み締めた。



「馬の名前を付けてもいいですか?」



馬のヒズメの音は、軽快に、そして確実に歩を進めていく。


私がこれから、生きていく場所へ。



「何にしたんだ?」


大して気にもしないらしい火炉の無機質な声に、思わず苦笑いを零してしまう。鬼には名前など意味のないものかもしれない。だけど残念。私にはとても大事なもの。


「名前にはコトダマが宿るといいますよ。馬の名前とはいえ、気にはしないのですか?」



私の質問に、火炉が視線を外した。それでも返って来ない答えが物語っている。


「ふふ、考えたことがないんですね。」

「……そうだな。」



穏やかな山道を冬の蝶が舞う中、馬の足音が響く。舗装された石の道。どうやら正面の山道を通って帰るみたい。




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