火炉~KARO~第一幕



「ほんとに、賢い馬ですね。」


そう言って微笑んだ和子は、月夜と手を繋いでいない方の手を俺に差し出してきた。


「帰りましょう、火炉。」

「っっ、」



穏やかな声音。俺の名を恐れず、愛に溢れたものだ。


俺を呪詛から救ったのは、これよ。


和子だからこそ、俺の名を呼べる。和子だからこそ、俺を愛しぬくことができるのだ。


「ああ。」


胸を打たれるとはこのことだろう。


手を取れば、和子が小さく首を傾げた。はにかむようなその笑顔に、たまらなくなった。


そこで、自分が笑っていることに気付いた。なぜか咄嗟に手で隠してしまう。


「あとでね、蒼炎。」


和子が蒼炎に声をかければ、承諾したように蒼炎が首を縦に振った。それに微笑んで、和子がゆっくりと歩を進める。



暗闇に入る寸前チラリと見れば、逃げ惑う人間共に血の色のような夕日が落ちているのを背景に、桜土が深く、頭を下げているのが見えた。



その目には、食欲。



どこかにいるのだろう。この状況であるにも関わらず、【希望】を抱く強き者たちが。


桜土は必ず、戦場で最後に残る。



それは、掃除をするため。


希望を持ち、未来を見据える強き者たちを食らい、将来花が咲くはずだったその芽を摘み取るのだ。



人にとって一番厄介なのは、誰であるのか。


恐怖を食らう王より、愛を食らう癒しの鬼より俺は、希望を食らう鬼であると思う。



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