火炉~KARO~第一幕

父親 /術師たちの王

side 和子



いつもの、お風呂。


水面を揺らす火炉の手は、何度も、右へ左へと行きかう。


初めて、火炉をマジマジと見ている気がする。なんだろう。いつもより少し、自分の気持ちがよく見える気がする。


「どうした?和子。」


答える代わりに首を横に振れば、フ、と笑った火炉は私に来いとばかりに手を差し出す。


もう一度首を横に振れば。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。


「フフッ、」

「……なんだ?」



近すぎて見えなかったこと。火炉の気持ち、私の気持ち。そして、私たちを取り巻くすべてのこと。


火炉に抱きしめられ、ぬくぬくと笑っていたあの時では決して見えなかったことが、火炉と少しだけ距離を置いていれば、冷静に見える気がした。


「火炉も、失敗することがあるんですね。」

「……。」



この強い鬼の王は、失敗することもなく、悲しむこともなく、ましてや挫折なんて知りはしないと思っていた。


「私が、浅はかでした。」



この鬼も、失敗もする。油断もするし、挫折も経験する。


そしてその失敗一つが、どの鬼よりも死に近付けてしまう。強く、大きな存在だからこそ、火炉は失敗できず、挫折もできない。



「ごめんなさい。火炉。」

「っっ、謝るな。」


私には、感情を匂いで感じることができないけど。今この鬼が、悲しみ、落ち込んでいることは分かる。




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