火炉~KARO~第一幕



それなのに私は、自分のことばかりで火炉を責めてしまった。



「でも、ごめんなさい。やっぱり怖い。」


あの瞬間、私は確かに火炉を失った。その一瞬だけでも自分が今どこにいるのかすら分からず、私を見ない火炉、そして勝ち誇ったような表情で私を見下す琴を、ただ見ていることしかできなかった。



なぜ琴が名前を呼んだだけで火炉へかかっていた呪詛が解けたのかは分からないけれど、一つ言えるのは、あの場でもし、琴が火炉の名前を言わなかったら?


もう一生、私の元へ火炉は戻っては来なかったかもしれない。



火炉を失うということは、私の全てを失うこと。


いえ。全てを失っただけじゃ、決して足りなかった。



そう思った瞬間、クラリとめまいがして。


私を心配そうに見上げる月夜に微笑む気力すら沸かなかった。


不意に、温かい何かが私の頭を包んだ。それは火炉の大きな体。息ができないほどの強い抱擁は、私を離さまいと力を強める。


「っっ、は、」



このまま、火炉の腕の中で潰されてしまえば。もうあの絶望を味わうことはないのに。体が生きようと、息を吐き出す。


ビクリと反応した火炉の体から力が抜けていくのを感じて、ただただ、残念と思った。




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