火炉~KARO~第一幕

父親 /穏やかな時間

side 和子



あの戦争から、半年が経った。冬はとうに終わり、温かな春も終わった。これから少しずつ、雨が増えて梅雨になる、そんな季節。



「和子様、王がお仕事を終えられ、お風呂を所望しておられます。」


「ありがとう、月夜。」


頭を下げる月夜の髪は綺麗に梳かれ、部屋の灯りを反射させてキラキラと輝いている。


上げられた顔、頬には大きな傷が。月夜の可愛らしい顔に似合わないそれは、あの時、飢餓状態の戦場で付けられたもの。

雷知の癒しの力でも治らないそれは、月夜自らが戒めとして残しているものらしい。


月夜は、数か月空腹に苦しんだ。火炉が与える食料は瞬く間に底をつき、それでもこの子の飢えは収まるどころか悪化していた。



何度も、私を食欲で血走った目で見ては、狂ったように叫んでいた。



それでも私は、血の一滴だってやるつもりはなかった。


月夜は私のもの。だけど私を食らう資格がない。それを分からせるためにも、必要なこと。


それは、月夜の命を守るための唯一の方法だった。



だって、火炉は絶対に、生贄の共有なんてしない。


私が月夜に血を与え育てたいとしても、火炉がそれを許すはずはなく、結局は問答無用でこの小さな命は殺されてしまうだろう。



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