さちこのどんぐり

ボクもう三年生やもん

新入社員のときに担当していた自動車整備工場の社長の葬式に参列した大森和也が部屋に帰ってきたのは、19時過ぎだった。

当時、とても世話になった大恩人を見送った直後で、
なんとなく食欲もなかった彼はいつものように外で食事をすることも
弁当の類を買ってくることもなかった。

礼服を脱ぎ、とりあえずシャワーを浴びる。

さっぱりして、テレビを観ながら缶ビールを一本飲んでいると

「やっぱ…お腹空いたな…」

ソファから立ち上がり、対面式のキッチンの向こうにある冷蔵庫を
開けてみる。

取りあえず食べられそうなものは…

面倒のないラーメンにするか…いや、気分としては米が食べたい。

卵がある。玉ねぎも、ハムもあるし、真空パックのご飯。

「よし!オムライスを作ろう!」

一人暮らしが長く、学生時代は飲食店でのアルバイト経験が多かった彼は
意外に料理は嫌いではなく。むしろ好きで、しかも上手かった。

オムライスは得意料理でもあり、彼の大好物。

手際よく玉ねぎから炒め、ハムを使ったチキンライスを作り、
それを卵焼きで包む。

いい感じだ。子供の頃から思わずワクワクしてしまう色と形。

「そういえば…」

「オムライス」によって、大森の脳裏に、ある記憶が蘇った。

それは、まだ彼が若かった頃。


30歳前後のときだから10年くらい前、彼は神戸の支店に勤務していた。

もちろん、そのころは肩書きもなく、
神戸の隣の明石市で一人暮らしをしながら
JR大久保駅から通勤していた。

8:30始業の会社に行くのに7:40くらいの電車に乗って。

ところが、その当時
週に2日ほどだったが、10時くらいまでに舞子駅に着けば良い時期があった。
そんな日は9:30くらいの電車で十分間に合う。


その理由は
当時、担当していた大口契約者が下校中の中学生を自動車事故で死なせてしまい、
その遺族との交渉のため
朝一で直接、被害者宅を訪問していたからだった。

たしか、父親は登山家だったと記憶している。

気が重い仕事だったが、朝ゆっくりできるし電車は空いてて
大森にとっては、とても快適だった。

ホームへの階段を降りてすぐベンチがあり、
そこに書類カバンを置いた大森が缶コーヒーを飲んでいると…



「おかぁちゃん!ここ座れるで!座りや!」と小学生くらいの男の子が来た。

「しまった!」と思い、大森はベンチのカバンをどけた。

「ほら二人座れんでー」

母親と目が合い、
大森は座るところにかばんを置いていたバツの悪さから会釈をした。


「おっちゃん!ここ座るとこやで!モノ置いたらあかんねんで~」

「ごめんな~。ぼうず偉いな~」

「ボクもう三年生やもん」
(おい鼻水出てるぞ)


親子はそこから二つ目の明石駅で降りて行った。



それからも大森は何度かこの親子と一緒になった。

確か、その生意気な男の子の名前は「浩二」だったと記憶している。

「おっちゃん、また大きいカバン持って…仕事大変やな~」
タメ口…( ̄― ̄)


その度に浩二と大森は、よく話をするようになったが

「おかぁちゃん おかぁちゃん」言ってる浩二を
大森は、まぁまぁカワイく思っていた。


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