さちこのどんぐり

笑顔 /守りたい笑顔

大森は自分のなかに溜まっていくストレスを感じていた。

もともと彼には、自分がこの年まで独身でいることの原因も分かっていた。
「寂しがり屋の一人好き」という極めて面倒臭い彼の性格のためだ。

人一倍寂しがり屋のくせに、一人になれる時間がないと、
なぜかイライラしてしまう。

彼が大学生になった18歳から、ずっと一人暮らしだったため家事は
これまで付き合ったどの女性よりも得意だった。

そのうえ、自分の生活や、そのリズムを他人に干渉されたり、乱されたりすることも嫌いだった。

でも一人も嫌い。

繰り返すが、本当に面倒臭い性格だった。



彼女ができても、なかなか長続きしないのも、このことが原因であろうし、

自分を「結婚には不向きな男」だと考えていた大森は
そもそも「結婚」というものに抵抗があって
長く続いた彼女とでも
「結婚」の話が出るたびにケンカになってしまっていた。



そんな大森にとって、最近、奈津美がストレスの元になっている。

日々、カラフルに変わっていく部屋や
最近、一人の時間が持てなくなっていること。
また彼女のペースに振り回されることも多く、
大森は自分の生活のリズムを乱されていると感じていた。



しかし、奈津美とは別れたくない

確かに、付き合い始めた当初は戸惑い、
彼女のペースに振り回されていることを快く思わないこともあったが、

いまでは、そんな自由で刺激的な彼女の言動が楽しいと感じることも多い。

そんな無邪気な奈津美に対して、
大森は心から「かわいいなぁ」と思っていた。
そのため、彼女に対して感じるストレスを、大森は抑えたかったし、
イライラしてしまう自分をなんとかしなくてはと悩んでいた。

ところが、そうやって感情を抑えてしまっていること自体、
奈津美は最近、不満に思っているようだ。


昨夜、このところ続けて大森の部屋に遊びに来ていた奈津美が来なかった。

アルバイト先で送別会があり、
それに参加することは事前に奈津美から聞いていたので、大森は

「遅くなったから、今日はまっすぐ自分の部屋に帰ったのだろう」
と考えていたが、全く心配しなかったかといえばウソになる。

だから、
「遅くなるようだったら、部屋に帰ってから無事だけはメールで教えてくれ」
と奈津美に頼んでいた。

深夜の一時ごろに
「いま帰ってきたよ」と奈津美からメールが来た。

大森はほっとして
「メールありがとう。おやすみ」と返したときだった。

奈津美から電話がかかってきた。

「なんで!もっと心配したり、疑ったりしないの!」なぜか怒ってる。

「夜で時間遅いから心配はしてたよ。でも無事に部屋着いたのを教えてもらったのに、何をこれ以上、心配したり、疑ったりするんだ?」

「私が他の男の子と一緒じゃないかとか…
かーたんって全然、ヤキモチとかやいてくれない!」

大森が全くそういう心配をしていなかったわけではない。

アルバイト先での飲み会なら、おそらく奈津美と年の近い男たちも大勢いたであろうし、奈津美と付き合うようになってから、そんな男たちの若さに嫉妬することもあった。

しかし、その感情を奈津美にぶつけてしまって、奈津美に嫌われるが怖かった。


「かーたんのバカ!」

涙声の奈津美はそこで電話をきった。

そんな深夜の電話で、睡眠が損なわれたことも加わわって
ストレスは増していた。

「この先、奈津美と上手く、やっていけるんだろうか?」

大森は悩んでいた。




夕方5時を少しまわったころ、奈津美から

「昨日はごめんなさい。今日はかーたんの好きなハンバーグ作って待ってるね」
というメールが来た。

奈津美に対する対応に迷っていた大森は

「今日は遅くなるかもしれない」と返信したが、

「待ってるから。お仕事がんばってね」というメールが奈津美から帰ってきた。




夜になり、仕事が終わっても、気持ちの整理がつかない大森は
部屋に帰ることを躊躇っていた。

奈津美を好きだと思う気持ちと、
その反面、彼女に生活のリズムを乱されている不快感の間で、

今夜、奈津美に会って、どう接したらいいかが分からない。

もし、昨夜の電話について、奈津美が同じ話題を再び蒸し返してきたら、
どう答えたらいいんだろうか?



帰れない部屋の近くで悩む大森の頭上では
今夜もたくさんの星と半分の月が輝いていた。


  • しおりをはさむ
  • 5
  • 4
/ 70ページ
このページを編集する