引かれ者の小唄

呼応







ーーside 赤木和



「佐伯さん、入るぞ」



大嫌いなあいつが、大好きなあの人の部屋に入る。気に入らないその光景に、いちいち腹が立たなくなってしまうくらいに慣れた。

一体いつから私達の間に、“立場”だなんて面倒な壁が出来たのか。一体いつの間に私は、そんな壁ひとつブチ壊す度胸を失ったのか。


“お前にしか出来ないことだ。頼むぞ、赤木”ーーきっと、あいつが私のことをそう呼ぶようになってから。その呼び名に込められたあいつの決意みたいなものを、譲れない思いみたいなやつを、理解出来るようになってから。

多分私が、誰より知ってるんだ。
あいつの気持ちも、覚悟も、なにもかも。



「…でも、やっぱり気に入らねー…」



副長官があいつだなんて、そんなのは初めから決まってたことで…あそこだけは、私が取って代わることなんて出来ない場所。

そんなのは全部知ってるけど、それでも“佐伯さんの隣”を簡単に譲ってやるなんて御免だわ。



「2人だけなんてヤラシイこと許してたまるか」



憎たらしいあいつの背が消えていったその扉に、そっと耳を寄せた。


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