檸檬喫茶の魔女

あやかし閑話奇譚 /紫陽花の約束




「げぇーんじー!」

口を大きく開けながら昼寝をしている玄二の周りをぐるぐると回る。


「なに寝ておる! 起きるんじゃー! この寝坊助ー!」


玄二は世話の焼けるやつだった。


腹を出して昼寝をして、風邪をひいて寝込むことも何度もあった。それにお茶をこぼして、畳とやらをすぐに汚す。

まんじゅうだってぽろぽろと零しては、大きな口を開けて笑う。



「若緑は元気だなぁ」

薄眼を開けて微笑んでくる玄二をキッと睨みつける。

いつもこの調子で、怒っているこちらが間抜けに思えてくるくらいだ。



「また呑気なことを言いおって! 風邪をひいても知らんぞ」

呆れてそっぽを向くと、玄二は声をあげて笑った。


「心配してるのか。ありがとうな」

「心配なんぞしておらぬ!」


人間なんて自分勝手でつまらない生き物だ。

今までそう思っていた。けれど、玄二は見ていて飽きない人間だ。あやかしが視えても怖がらず、食べ物を分けてくる。


「なあ、玄二……これはなんの模様じゃ?」

「ああ、紫陽花だな」

玄二宛に届いた文に描かれている不思議な絵は、紫陽花というらしい。

玄二によると、雨がよく降る時期に咲く花だそうだ。



「それは綺麗なのか?」

「ああ、綺麗だよ。水色や青、紫、ピンクなんかもあったな」

「雨が降る時期に咲くなんぞ、難儀な花じゃな」


植物というものは日差しと水が必要だと聞く。

けれど、雨が降ってばかりでは日差しはなかなか届かないだろう。





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