こじらせたのは君のせい

求められていない真実 /サギ

*田中文哉








美沙を苦しめているもの


多分それは、「先生」なのだろう。






「先生」は予備校のチューターで
現在は美沙と同じ大学に通っている人だということは知っている。


ただ・・・



その人について
美沙が具体的なことを語らないのは

彼女自身のこだわりなのか

もしくは
僕に言いたくないということなのか


最近ではよくわからなくなっている。









「先生」とのことは
二人だけの秘密にするつもりだと思っていたのに


僕にその条件に合致する知人はいないはずなのに






最近の美沙を見ていると
何故だか僕の知っている人物のような気がして


彼女を苦しめている要因のひとつに
僕があるような気がして






先生の話をされると
どうしていいのか反応に困ってしまう。










帰り際
マンションのエントランス

降りてくるエレベーターの表示を見て
僕たちは左右に分かれた。



1階に止まったエレベーターからは
顔見知りの人が降りてきて


「あーら! フミ君と美沙ちゃんじゃない!」

明るく声を掛けてきた。






「なあに? どこかの帰り?」


「そこの焼鳥屋に行ってました。」






「あら、いいわねぇ・・・
あそこなら歩いていけていいものねぇ・・・」


「そうなんですよ。」






「ふふふっ・・・
あなたたちって、ずっと仲がいいのね。」



「もう、兄弟ですよ。」






「何言ってるのぉ!

そんなこと言ってないで
もう、付き合っちゃいなさいよ!」





今まで何も言わなかった美沙が

「ナイナイ!」

笑いながら手を揺らしていた。









「それじゃあ、旦那を駅まで迎えに行ってくるわ。」

「気を付けて。」




「ありがとう、お休み。」

「お休みなさい。」





手を振って彼女を見送ると
距離を縮めてエレベーターの箱に入った。







あの時

僕たちはエレベーターの左右に分かれて立っていて
親密な素振りは見せなかった。

それなのに・・・










エレベーターの扉が最上階で開き
僕たちは降り立った。








「今度は、お酒抜きで会おうね?」

「・・・」






上手く切り替えの出来ない僕は
笑顔の美沙に階段へと促された。







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