漆黒に、華の紅【完】

入院






「口開けろ」


『……』


「おい」



頑なに口を開けない私を見て呆れたように溜息を吐いてから食器をトレイの上に置いた。



ご飯は自分で食べれるし……


入院とは言うけどただ安静にしてるか見張るだけだし、面倒を見られる程困ってるわけじゃない。



珱人は無駄に責任を感じているのか、俗に言う“あーん”をしてくる。



絶対にやらない。



そう決め込んでいたのも物の10分。 呆気なく決意は終了した。



珱人に食べさせられていると、念の為の熱を測りに来た桜庭に爆笑された。



「ぎゃははははは‼︎ 雛鳥みてぇ‼︎」



……コロシテやる。



ニコリと微笑みを浮かべると桜庭は何かを察したのか、私の額に近づけてサッと熱を測ると「ごゆっくり〜」と足早に逃げて行った。




…逃げ足だけは早い。



ドアを睨み付けていると、珱人が急かすようにスプーンを口元に持ってきた。




それを仕方なく食べ続け、半分程残して食事と言う名の拷問も終了。



珱人は不満そうに私を見ているが。



最近の病院食は美味いが、量が多い。



いつもこれには悩まされる。


減らしてくれと言っても、ここの病院の奴等は頑固な奴が多く「押し込んででも食え」と脅してくる始末だ。



まぁ、結局残すのはもう分かっているらしく、せめて消化しやすい物を私には出してくれているらしい。





まぁ、それでも完食出来ないのだが。





食器を珱人が片付けがてら仕事に戻る為に帰る用意をする。



最近は私に付きっきりだったので仕事もさぞ溜まっている事だろう。




エレベーターの少し奥にある返却ワゴンにトレイを持って行くついでに珱人を見送る。



「安静にしてろよ」


『あぁ…悪かったな』



申し訳なさが募り小さくそう言うと、珱人は小さく微笑んで頭を撫でてきた。



着いたエレベーターに乗って下がっていくのを見送ってから食器を返す為にエレベーターの前から更に奥に進む。





ひょこひょこと、ギプスを巻いてあるから変な歩き方になる。


そして足元を気にするために下を向いて注意深く進んでいて、周りの事はあまり見えていなかった。 し、騒がしい音も聞こえていなかった。





だから、前方の角を曲がろうとした時、人影が目の前に現れた瞬間不覚にも驚いた。




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