漆黒に、華の紅【完】

出張





『暑い……』



首筋を嫌な汗が流れていく。




私の不機嫌そうな態度か、それとも汗の伝う姿か。



呆れた表情でハンカチを渡してくる乃片。





「嬢。 くれぐれも勝手な行動はしないで下さいね」



『聞き飽きた。 煩いぞ』



お互い目も合わせず隣に立って言葉を交わす。




いや、この場合会話ではない。







今、私と乃片しか居ない。



「お嬢はん一杯どうどす?」




真っ白の顔面に紅い唇、長い髪を美しい細工の施された簪で纏め、上品さが漂う着物を着て下駄をカラコロと奏でるように鳴らす、人。



芸者か舞妓か。 はたまたただの売子か。




餡蜜を勧めてくるその女性に手の平で制して「結構」と言葉を選ばず断る乃片。






『……久しぶりだな』


ここは京都。



ざわざわと人の溢れるような町ではなく、物静かでどこか優しい“日本”を教えてくれるような控えめの町。



2,3年前に訪れたっきりかと思う。何故そんな所に用があるかと言うと、仕事だ。



旅行でも何でもなく仕事だ。



2,3年前に訪れたのは、西の支配者、神楽を様子見に来たからだ。


そして、何故か神楽に気に入られてしまったのだ。



何故その結果に至ったかは省くが、神楽は5年前、つまり私が訪れる前に一度滅んだ。





昔の神楽と言えば、薬物、人身や臓器の売買、悪質な借金法など、とにかく酷かった。




だが、それを打ち破ったのは頭を自らの手で殺め、組を更生した現在の組長だ。





今はまだ駆け出しと言っても過言ではないが、身内を迷いなく殺める事からこちらも又然り非道いというのは西の奴等も悟った。



神楽は考察や環境が変わったもののずっと支配している。





その更生した頭に、私は気に入られてしまった訳だ…



それからは私の父と、私を通して話を付けて同盟を結んだ。





会合には今まで乃片一人にさせてきたが、リハビリがてら私が駆り出された。



まぁ、乃片が同行しているのに変わりはないが。




そうと言えば珱人を説得するのが大変だった。



怒りに任せて組の仕事を5つ1日で片してきたその日は、潰された。腰も足も立たなかった。



それを乗り越えられたのは龍が圧力を掛けたからだ。


まぁそれは…ご想像にお任せしよう。





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