漆黒に、華の紅【完】

悲痛



ーーー




『……』


運ばれてきたコーヒーはとっくの前に冷えていて、飲む気にもなれない。






ずっと、先ほどまで向かいの席に座っていた伊織の言葉が頭の中で回っていた。




『どーいうことだ‼︎』



「何がよ」



『あの電話のことだ‼︎ それに、突然切って今日まで連絡とれずにっ』



「忙しいのよ」



『貴様っ』


「落ち着いてよ。 話できないじゃない」



『………っ要件は‼︎』



「まぁ私も時間ないし。 簡潔に伝えるわ。










あの側近ちゃん、宿敵の木立に出入りしてるわよ?」











ーーーーピリリリ
リリ ピリリリリリ







頭の近くで鳴っているような着信音にハッとなった。



自分のポケットで鳴り響く携帯に潔く気づき、席を立った。


着信音は長く響いていたのかカフェの店員から客まで、たくさんの人の視線に晒されていた。




コーヒーに手をつけず店を出て、幻想のように過ぎた先ほどの時間をまた思い出した。



先ほどは伊織の電話が鳴り、颯爽と「じゃあね」と言って去っていった伊織。


置いて行かれた私は何分、あそこに居たのだろうか。




着信音がまだ響く携帯を耳に当てて通話ボタンを押す。



『はい…』



ー「先ほど注文を受けました花束ですが、時間がきましたのでお電話させていただきました」


『あぁ……すぐ取りに行きます』


ー「お願いします」



プツリと切れた花屋からの電話に、重く溜息を吐いた。









これからどうするか、な。






花屋に向かって歩きながら、視界の端をチラつく空の青に奨人を重ねて悔しさを噛み締めた。






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