漆黒に、華の紅【完】

短編 /長男




「……温かいな」


『……それは、私の体温でしょう…』


ぎこちない会話。



もう大分と張っているお腹に耳を当てるようにして伺っている珱人の姿に笑った。




『すっかり父親のようね』


「…間違いなく父親だが?」



ムッとしたような顔で反論するようにお腹から顔を離した珱人は跪いた体制のまま私を見上げた。



最近、幼児返りをしている珱人。



お前が幼児返りはおかしいと思ったし呆れたが、やはりどうしても愛おしく思えるのはもはや盲目だ。






「…こんなにも愛おしいのだな」



しみじみとそう言う珱人が手をお腹に伸ばし撫でる。


その手に自分の手を重ねて微笑んだ。






『……そうね。 予想よりもずっと大変で、そして何より愛おしい』




そう。 大変だった。臨月を迎えるまで。



悪阻はもうとてもじゃないほど酷くて、食事に関しては大変苦労した。



それに、安易に考えて街の視察に行ったら迂闊にも季節外れのインフルエンザにかかってしまって大変だった。



私は旧型の人間なのでインフルエンザにかかった時は絶望的な気分で泣きそうだったが、桜庭はケロリとして


「妊婦でも飲める薬、もう開発されてるぞ?」


と何ともないことのように言った。



時代についていけていない感じがして、インフルエンザが治った日から片っ端にインターネットで様々な雑学を身に付けた。




そして、奨人に後ろから話しかけられ驚き、転けそうにもなった。


それに関しては透にとてもじゃないが私が考えられないような惨いお仕置きが奨人には下ったらしい。




まぁ、当然の報いだと思い何もフォローなんぞしてやらんかったが。







そんなこんなで、臨月に入った私とそのお腹で育つ赤ちゃんは今は元気だ。






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