漆黒に、華の紅【完】

入籍




珱人side





今、藤咲の屋敷の居間でズラリと机に向かい合っている。




俺の左隣に親父、右隣には久登と恵夢が並んでいる。



向こうには藤咲……。




藤咲の長、仁さんに無表情でボーッとして見える華、その隣にはこの前のムカつく男…確か奨人と透。



そして仁さんの傍後ろには昔一度とこの前の奨人とやらを制した時に見た…乃片さん、だったか。




華をガッツリ見ていると、隣で親父が話し始めた。




「互いに母親が居ない、って何かムサいな」



「そのムサい環境から大事な一人娘を譲ってやるんだ。 有難く思え」



仁さんはサラリと親父に切り返して先程から書いていた書類をサッと横にずらし、華の前に出す。




「華」




『……』



華は一瞬苦々しいと捉えられる表情をした。





だが、そこは流石藤咲の娘と言ったところか。



黙々と側近に差し出されたペンをその書類に滑らせた。





『……』



あくまで無言を貫く華に仁さんはフッと息を吐いて書類を俺達に机の上に滑らせ、寄越した。





「……いいんだな」





“婚姻届”。



少なくとも、遊びなんかで提出出来る物ではない。




親父がまっすぐに見つめた先には静かに瞳を伏せる華が居た。





その姿が儚く見え、俺は柄にもなく少し胸を弾ませた。




『……はい』




視線を上げることなく返事をした華に親父は納得していなさそうな態度だったが、親父は後ろで待機していた白河に婚姻届を渡した。



白河 佑-Shirakawa Yuu-。



親父の側近であり、理解者でもある。



冷静だが根は優しく穏やかである。




俺も昔は親父の代わりに世話をされていたらしい。



手に持っていたファイルに挟んで白河は頭を下げ、部屋を後にした。




白河に届けさせると、藤咲にも伝えたので案外サラリと出て行った。




「……これで、俺達に逆らうのは一層難しくなったな…」




しみじみとしたように呟いた親父は仁さんに同意を求める様に なぁ? と視線を投げた。






「……元から逆らってくる大魚など其処等には居らん」




確かに、仁さんの言う通りだ。




此処等で俺達桐生と、藤咲に逆らう力を持った組など居なかった。



逆に雑魚がのさばるばかりの街。




俺には何とも言えないが、繁華街は特に生々しい喧騒が止まない。





昼も……夜も。





静かに目を伏せると凛とした声が優しく触れる様に鼓膜を揺らした。




『私は、どちらに住めば?』




尤もな意見だ。



華は中立的な位置に居ることになる。



藤咲は3人の子供が居る。




長男の藤咲 龍-Fujisaki Ryuu-、長女の華、次男の藤咲 蓮-Fujisaki Ren-。




3人はそれぞれ組に関わっていたり関わっていなかったりする。




それは置き、藤咲は藤咲 龍が継ぐはずなので華は跡継ぎに推されることはない。




なので、俺の妻となった今は将来桐生を担う俺に付くのか、藤咲のサポートを続けるか。



本当のところ、迷っているのだろう。



「華には俺の部屋に住んでもらう」




まっすぐに瞳を見据えそう言うと、華は少しキョトンとした幼い表情を見せた。





「あぁ…言葉が足りない息子でごめんね」




……喧嘩売ってんのか。




親父は俺の睨みなど無視して華に説明を始める。



「珱人は桐生の次期組長なんだ。 その妻となってくれた君はもう、桐生なんだ。



だが、君にも意思があるし、藤咲の大切さも分かっている。



藤咲の為に働くのも良い。 でも、これからは桐生の情報も任せることになる。」





親父は一度言葉を切り、華を細めた目で射抜いた。




「……やって、くれるかね?」





華はフッと笑いながら小さく頷き、その漆黒の髪をサラリと肩から落とした。




『勿論、そのつもりではある。 だが、今私が話しているのは住まいの話だ』




突然冷たい色を浮かべた深紅の瞳に親父は目を見開いて、すぐにケラケラと笑った。




「いやぁ…面白いね。



珱人はマンションに1人暮らししているから、そこに行きなさい。



存分に2人の時間も作れるだろう」




笑う親父はさっきとは打って変わり、少し抜けたいつもの親父に戻った。




「その……、孫は、早めに見たい」




そう言った親父の額に華から放たれたボールペンが直撃したのは言うまでもない。





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