許嫁(いいなずけ)・壱

成長期 /雑多




「「「行ってらっしゃいやしっ。」」」



「ああ。」



柴田が松江に入る事になり、お袋に『首筋フェチ』の話を根掘り葉掘りされ、げんなりしながらも、春菜を七瀬に送り、
また何時もの日常が帰って来た。





俺は中学に入ってしばらくして、お袋が倒れたのをきっかけに独り暮しを始めた。


高校卒業迄は続けるつもりだったが、
春菜が許嫁になったのを切っ掛けに始めた本業の勉強のせいで、本家に戻ることが増え、独り暮らし用の部屋はあるものの、本家に泊まる事の方が多くなった。
それも親父達の狙いだったんだろうと思う。



お袋が2度目に倒れた時はなかなか意識が戻らなくて。
正直、逝っちまうかもと覚悟した。

持ち直してからも、安心は出来なくて、組のピリピリした雰囲気に耐えられず現実逃避をした。




「ガキだったし、しかたねえよな。」



今なら、おたつく組員達を宥め、笑って『心配すんな』と声をかけるだけの余裕がある…と、思いたい。



お袋はあれから車椅子を使いだした。

天気のいい日は親父や弥生さんが一緒に散歩をしていた。

去年の夏、庭の日本庭園を囲む様に遊歩道みたいのを造るから、何のおふざけだ?と思ってたが、
まさかこれを想定してたとはと舌を巻いた。

実際日本庭園の足元は、飛び石がおいてあったり、狭い石橋がかかっていたりと、車椅子で移動するには向いて居ない。


まったく!親父のお袋への愛情は半端ない。


悪くなって行く事を考えて先に動いてフォローする。


もし、春菜がそうなったら、俺は同じように動けるか。

多分、無理だな。
だいたい悪くなって行くのを受け止めることが出来そうにない。


まだ、今は。



「これからだ。」



まだ俺と春菜は始まったばかり、先は長い。



『緋色』からの迎えの車に乗り込み、目を閉じた。











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