許嫁(いいなずけ)・壱

桜華学園 /夏休みの逢瀬



「恋におちた、か。」



グラスの氷の音を楽しみながら、酒を飲み干す。




「で、彼女とはそれから?」



「なかなか声がかけられなくてさ。」




苦笑いをする真治。




「マジか?口から先に生まれたようなお前が!」




「何気に失礼だな。匠さん。天城君に似てきたよ!」



いやいや、まさかだろ!





「怪我した組員を整骨院に連れて行って、受付で喋るのが精一杯だよ。」




喋べれてるじゃねえか。




「世間話だけだし。」




「へえ。」




「気のきいたセリフ一つ言えない。
てか、俺すっかり恋愛対象外みたいで、
やたら『今日は誰とデート?』とか、『今の彼女さんはどんな人?』とか聞かれる。」




ため息を吐く真治。




なるほど、そんな立ち位置か。





「前なんて、『今度私とデートしてね?』って言われて固まったら『やだ!冗談よ!』とかさ。
恭子ちゃんって小悪魔。」




うん?それって…。





「…切ないな。」




ため息をつく真治は…





「うっとおしい。」





「…酷っ!」




テーブルに突っ伏し、泣き真似もいつもよりリアル。まあ俺にすがって来たのはそれだけ深刻か。




「…なあ、真治?」



「…うん。」



テーブルから目だけ俺に向ける。捨てられた犬みたいだな。




「『…今度私とデートしてね?』ってのは、結構勇気を出していったセリフじゃねえの?お前が無反応だから冗談にされたけどさ。」




「…!! そうなの?」




「さあな。けど話聞いた限り、自分からそんなこと言わない娘みたいだから。」



やたら真治の女関係気にしてるみたいだし。

ただ単に嫌われてるだけかも知れないが。




「うん。意外で、固まった。
って、あれ本気だったのか!スルーしちまったぞ!」



頭を抱えた真治になんだか笑えて来る。今までのお前はどこに行った?




「今まで散々ジェットコースターみたいな恋したんだ。
今度はゆっくり恋していいんじゃね?」




「…うん。でも焦れったい。」



さっきよりだらしなく、テーブルに抱きついてる真治の頭をこ突いて笑った。



俺なんかずっと焦れったい恋だ。








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