許嫁(いいなずけ)・壱

桜華学園 /幕間9

side 飯田強兵






江州音頭が響く広場は人が沢山いて不快で、息苦しいくらいだった。

俺は人込みが嫌いだ。


そんな俺が重い御輿を上げ、隣町の祭りに出掛けたのは、ただひたすら女に会いたかったからだ。



七瀬春菜。
同じ近畿敬侠会七瀬組のお嬢でガキの頃からの顔見知り。

小さな顔にデカイ目長い睫毛。鼻も口も小さくて可愛らしい。
一目で気に入り嫁にすると決めたのが小学3年の頃。
当然初恋。

当時飯田の跡取りとして大事に育てられた俺に、望んで叶わないことはなく、春菜も当然俺の嫁になると思い疑わなかった。





「何が許嫁だ!」




俺は会場の反対側で春菜と手を繋ぎ、仲睦まじい様子を見せ付ける長身の男を睨み付けた。



松江匠。春菜より10も年上のその男は春菜に出会った1年後、いきなり俺の前に現れた。

高い背をした、女みたいな顔をしたやつ。

アンな奴、あの綺麗な顔で春菜を騙したに違いないんだ。

うんと年上だし、俺の方が春菜には相応しい。


俺は組員を使って松江匠を痛め付けるように指示した。春菜の目の前で殴られれば、春菜だって目を覚ます。アイツだって消えるに違いない。



計画に満足した俺は組で報告を待って居たんだ。



ところが、春菜の親父が組に乗り込んできて、ボコられた組員と監視カメラの映像を親父に見せた。

親父は真っ青になり、春菜の親父に何度も頭を下げていた。


ついには俺に春菜を諦めろと言う。

なんでだよ!



昔の経緯なんて知ったこっちゃねえだろ!

なんでそれで春菜を諦めろっつんだよ!



俺の剣幕に親父は考え込み、春菜の親父が死んだらなんとかなるかも知れないと言う。



あそこは組員が若手中心だし、親父が死ねば春菜の兄貴があとを継ぐ。
若頭も若手の組員だし、混乱に乗じて春菜をかっさらえば、
松江匠もいくらなんでも北陸から抗争は仕掛けまいと。


だからそれまで大人しく待てと言う。




ああ。待ってやったさ。



ところが、春菜は全寮制のお嬢様学校に囲われちまったんだ。

全部あの死に損ないの春菜の親父のせいだ。




この飯田強兵様が、なんで惚れた女の顔さえ見れねえ目に合わされなきゃならねんだよ!









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