許嫁(いいなずけ)・壱

謀(はかりごと) /遠雷









「匠っ、目を開けてっ、匠ぃっ!!」



午後の墓地。


しんと静まる空間に響くのは春菜の胸をかきむしる様な声。

それに被さるように遠雷が響く。



「不味いな、降るぞ。」



真治の声に舌打ちしたくなる。



ポタポタと俺の頬を伝うのは春菜の涙に違いなくて、

抱き締めて大丈夫だと言ってやりたいのに、
目を開けることも、声を出すことも出来ないのがもどかしい。








ピりりりり…



着信は真治のスマホ。



「了解。」




一言話した真治はスマホを切り、




「お疲れさん!オールおっけ!
芝居は終わりだ!」





真治が声を張り上げ、皆がワッと歓声を上げた。



合図を待ちかねた俺は、直ぐに腹筋を使い起き上がると春菜を抱き締める。




「俺は大丈夫だ。あれは空砲だ。泣くな。」



優しく耳もとで囁いた。




「‥‥‥」



あまりの事態に春菜はフリーズ。




「え。空砲?…お芝居!」





「申し訳ありません春菜さま。」




充も真治の声と同時に起き上がり、眼鏡を直すと深々と春菜に頭を下げる。




「天城も、お芝居?」




「はい。」



申し訳無さそうに眉を下げた充に、春菜は涙の残る目で笑いかけた。




「よかったぁ。」




春菜は俺の腕の中から泪目で俺を見上げると、




「死んだら殺してやろうと思ったんだからっ! 」




よく分からん理屈をこね、またぐすぐすと泣き出した。





「申し訳ありません。春菜さま。」




「ふ、ぅえっ!!
亮ちゃん?え!何で?」




春菜も驚いたが俺も驚いた。



滅多に本家を空けない安生が墓地に立っていたから。







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