許嫁(いいなずけ)・壱

無くしたもの・掴み取るもの /変化





『要を失って格が落ちたとだけは言われるな。』





ジイさんは、安生の葬式後、組員達に激を飛ばし結束を促した。



後を引き継いだ橘や、橘の仕事を引き継いだ柴田。
さらにそれを補佐する岩泉や、充。真治、日向、山口、皆が新しい仕事を覚え、こなし始める。

それでも、過不足なく仕事が回るまで1年かかった。
さらに自分流に余裕を持ちこなすまで2年。


3年目の今年は、安生が図面を引いた若頭邸の着工を目指すべく計画中だ。

皆が余裕を持てるようになったのは嬉しいことだが、
春菜の父親、七瀬快里の健康状態が芳しくない。




春菜が高等部に入ってからは、入院期間が長くなった。






『春菜も心配だな。』




通話相手は小田切聡太。随分久し振りの電話で、聡太は今は小田切の組長だ。




「ああ。春休みも殆ど快里さんに付ききりだ。
あまりくっついてると快里さんが気にするから、去年の夏は無理してお袋さんとファッションショー見に行ったらしい。」




『女の子だな。ファッションショーとは。』




「ああ。何がいいのか、さっぱりわかんねえ。

友達の父親が有名なデザイナーなんだと。」





『…へぇ?友達の?』




俺の言葉に聡太が反応した。
こいつ、やたら勘が鋭いからな。



「…なんだよ?」




『いやぁ?拗ねてるのかな…とか。』




「…志藤亜依(シトウアイ)。春菜の憧れの女だ。
父親は世界的に有名なデザイナー志藤兼(シトウケン)。」




『へえ、すごいな。さすがにお嬢様学校。
確か志藤兼の嫁さんって有名なモデルだった気がする。
春菜が憧れるんだ。余程の才色兼備だな。』




「…ああ。『亜依さま』だそうだ。ダチを様付けってどうよ?」




『松江の狂犬がマジで拗ねてやがる。』



電話の向こうで遠慮なく言われた。




「悪かったな。」




面白く無いものは面白く無いんだよ!






『いや、変わりなくて何よりだ。』




「…ああ。そっちは?

大変だったな。」




『…まあな。』




短く答えた聡太はあまり笑わなくなった。


彼は安生が無くなった秋に親父をガンで亡くした。



入院中に組長になっていたから組の方は特に混乱しなかったが、
敬侠会の方は掌握しきれず、その次の年だけ、トップの座を2番手の青井組に渡していた。



そのころから、3番手の山田組が暗躍しだして、小田切の足を引っ張ろうと動き出した。

こいつは、1年で敬侠会を掌握し直したが、かなり苦労した筈だ。










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