許嫁(いいなずけ)・壱

無くしたもの・掴み取るもの /幕間12

side 葉崎真治




松江の奥まった和室。
橘さん、俺、天樹くん、加賀さんが顔を合わせていた。
この中では俺が一番の新参者。何か緊張するんだよな。

松江の裏を仕切るものって感じで、如何にも怪しい顔触れに俺がいるのが誇らしい。

恭子ちゃんに裏部隊に移動したことを話したら、危なくないか心配されながらも、女関係の仕事から離れた事を喜んでもらえた。




「葉崎、顔がきしょい。引き締めなさい。」




「ぅあっ!はい。ごめんなさい。」



ぼんやり恭子ちゃんに意識がいくとすかさず天樹くんに突っ込まれる。
エスパーか?

反射的に天樹くんに謝るのは今までの弊害だ。




「まあまあ、天城。葉崎はもうすぐ結婚式なんだ。浮かれた顔くらい許してやれ。」




「‥‥‥」



橘さんにまで笑われたってことは、かなり顔に出たって事か。反省しないと!



「すいません。」




あわてて頭を下げた。




「はいはい、天城さん、須藤杏奈(スドウアンナ)が気に入らないからといって、葉崎に当たるのは如何なものかと?」




然り気無くフォローしてくれる加賀さんはかなり優しい。





今回の俺達のターゲットは須藤杏奈。
彼女は匠さんの幼稚園の頃の同級生だった。

当時、匠さんは初恋の人だと母親のみちるさんに打ち明け、なんと母娘で松江の本宅に遊びに来たこともあったらしい。



もっとも匠さんは覚えていないらしく、今の彼女の写真を見ても興味を示さなかったと天城くんは言っている。

匠さんには春菜ちゃんがいるんだし、入籍も済ませた今、彼女にしゃしゃり出てこられちゃかなわない。





「須藤杏奈か。なんつうか怪しい女ですよね。」




俺は何度目かの台詞を吐いた。




切っ掛けは今年に入って本家に掛かってきた1本の電話。



『松江匠さんはご在宅ですか?』




普段はまずかからない若い女からの丁寧な電話。
それを偶然、橘さんが取った。



須藤杏奈と名乗る名前に聞き覚えがあった橘さんは、
匠さんは外出先です。と電話を切り、若頭に報告を入れた。


それが始まりだった。








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