許嫁(いいなずけ)・壱

平穏 /掠める思い



春を迎え、隼人は4月から認定保育園に通い始める。春菜も高校2年に進級する。


快里さんの様態は少しずつ悪化していて、

春休み、春菜の松江への帰宅は叶わぬままだった。
俺もまた、事業を少し広げ、決算期の忙しさと竜崎組組長の動向を探るのとで忙しく、春菜には会えずじまい。



「悪いな。戸籍上は夫婦なのに。会う時間がとれなくて。」




『私の都合だもの、ごめんなさい。気を使わせて。』



今日は春休みの最後の電話で、




『夏休みには必ず顔を出しますから。』




春菜は申し訳無さそうに俺に言う。

若頭邸は8割方出来上がっている。

隼人や風花の顔を見たいと言いながら、それも叶わぬままだった。





「そうだな。夏休みにはまた俺が快里さんに会いに七瀬に行くよ。なんなら隼人も一緒にな。」




そうすれば春菜と会えるし。
快里さんの具合を見て春菜を松江に連れて帰るのも可能だろう。







『え…。』





何だこの間は?




「どうした春菜?」




『ううん。嬉しい、けど、お仕事は?』




「気にすんなお前に会えるんなら、仕事は充や広田にまくるから。」




『私の、ため?』




「春菜以外の為に動かねえよ。」




『…ありがとう。匠。』




少しぎこちなく話す春菜。
快里さんの具合があまり良くないのかも知れない。

近々覗いて見たほうが良いのかも知れないな。



遠慮がちに話す春菜に違和感を感じながらも、俺はそれを父親の病気のせいだと思い込んでいた。









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