許嫁(いいなずけ)・壱

平穏 /幕間15

side 須藤杏奈






「じゃあね、行ってらっしゃい。」



部屋着のまま玄関で彼を見送る朝。


さあて、二度寝するかな。


隠すことなく大口で欠伸をしてベッドに戻る。



テーブルの上の朝食後の食器だけは食洗機に入れ、寝室のベッドに体を沈めた。

我ながら自堕落。
愛人暮らしが身に染み付いてる。なんてね。もう恋人でいいのかな。
そっとお腹に手を当てる。


布団に入り目を閉じると一瞬、隼人の顔が浮かんだ。

未だ4つの私の生んだ息子。隼人はとても利口な子だ。





「やだやだ、未練がましいぞ私っ。」



私はあの子を売ったんだし、松江匠真の元に居れば私なんかより余程まともに教育を受けさせてもらえる筈。














私は北陸の港町の生まれで、そこは『松江組』と言うヤクザが本家を構える街だった。



大手電気メーカーの工場で管理職だった父と新入社員だった母は、不倫の末、私を身ごもり出産。略奪婚を成功させた。


私は5才までその街で暮らしていた。当時会社役員の父は40才。母はまだ26才。


父は不倫して離婚した代償に先妻に住んでいた家を譲り、私達はマンション暮らし。



どうやら母はそれが不満だったらしい。
父は随分無理をして新しいマンションを買ったのに。



「あんなお家に住みたいわ。」



海辺の高台に建つ一際大きな日本家屋をうっとりと見つめる毎日。




それが松江匠真が住む松江組の本宅だった。

まさか私が生んだ子があの家に住むことになるなんて…どんな巡り合わせだったのか。






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