許嫁(いいなずけ)・壱

解ける糸 /幕間16

side 天城充






「―――と、言う訳で、須藤杏奈が春菜さまと接触した可能性は捨てきれませんが、
意図的なモノではないと思われます。」




現在私は橘さんと若頭に呼ばれ、
春菜さまの様子が可笑しい事、匠さんが原因追求を始めた事を報告していた。





「成る程な。橘?」




「はい。」




「天城に種明かしは?」




「いえ。須藤杏奈の素を全て知るのは柴田と、現在京都にいる宮部由くらいです。」




「間違った情報を与えても引っ掛からねえか?
さすがに天城充。匠が選んだだけあるな。」




「はい。頼もしい限りです。」




何だ?

何か隠されてるのか?

間違った情報って何がだよ。




「須藤杏奈は良い女だよ。顔じゃないぞ?ここがだ。」



若頭はそう言うと胸を叩いた。



「隼人との別れの日のアレは須藤杏奈の芝居だ。
悪い母親として別れたいとな。それが隼人を手放すケジメなんだとよ。」




「頼まれて若頭も芝居したと言うことですか?」



俺が呆れて問うと、



「ああ。」



平然と返事を返された。



「ああ。って…!」




「隼人を引き渡す条件だったからな?」



若頭は可笑しそうに口角を上げ、



「あの時点で須藤杏奈は悪役の方が隼人も受け入れられやすかったろ?」




なあ?と橘さんを見る。



「…人が悪い。」




「まあそう怒るな。彼女は知らないが、須藤杏奈の素は全て記録してある。見たきゃ橘に見せてもらえ。」



「…裏部隊すべてに見せてよろしいでしょうか?」




「構わねえよ。
須藤杏奈が酷い女だと思い込んでした聞き込みと、そうじゃねえと知った後の聞き込みじゃあ、随分結果が違うかも知れねえな?」




若頭が楽しげに笑う。



まったく、何して遊んでくれてんだ!




「…とは言え、春菜ちゃんを泣かす訳にはいかねえな。」




若頭はスマホを取り出し、タップする。





「…ああ。悪いな?
今、いいか?」




『松江さん?隼人に何か有りましたか!』




「いや、ちょっと聞きてえんだが。」




『何か?』




「琵琶湖湖畔の――病院。知ってるな?」




『はい。3月に行きましたけど?』




「七瀬春菜、匠の許嫁に会わなかったか?」




『は?七瀬春菜?
‥‥‥‥もしかして、あの美少女かしら?』




「覚えがあるか?」




『立ちくらみを起こして助けてくれた女子高生らしき美少女が…。』




「何か話したか?」




『隼人の話と匠君の話を少し。』




「あ゛?」




『貴方が送ってくれた写真です。あれを見られて少し話をしました。
何を話したかは忘れてしまいましたが。』



「そうか。」




『…ただ、匠君と隼人が似てると言ってくれて嬉しかったのは覚えてます。』




「…そうか。急に悪かったな、体大事にしろ。じゃあな。」




若頭は通話を終え、苦い顔を俺に向けた。








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