許嫁(いいなずけ)・壱

帰国 /対 片桐誠之介




「春菜と、妻との面会は叶いませんか?」



俺はダメもとで桜華学園理事長、片桐誠之介と交渉していた。




「松江さん、申し訳ないが規則は規則。
命に関わるような緊急事態でもない限り面会は許可出来ないし、特例は作れません。」



目の前にいるジイサンはかなり年配。
まあ、終戦時に若かった筈だから年寄りなのはわかるが、そのわりに眼光だけは鋭い。得たいの知れない感じがする男だった。



さすがに裏世界の首長(ドン)と言ったところか。



「そうですね。失礼しました。妻が近くにいると思うと堪らなくなりました。お恥ずかしい。」




俺は素直に頭を下げた。
想定内だからな。仕方ない。連絡出来なかったことを直に謝りたかったんだが。



「松江さん。最近貴方の奥様にお目にかかる機会がありました。明朗闊達な素敵な女性ですな。頭の回転も早い。」





「…畏れ入ります。」




可愛いから気に入られるのはわかるが、えらくべた褒めだな。
春菜のやつ何をして気に入られたんだ?

内心首をひねる俺に、



「君と彼女がもり立てるなら、北陸気鋭会の先は明るいな。」



裏世界のドンはカラカラと笑った。

手続きを終え、部屋を出ようとした俺はドアを開けて頭を下げた男をチラリと見た。

滝谷保。随分意味深な視線を俺に向けていた。

外人部隊に入る前の経歴は不明。コイツも得体が知れない。



「お気をつけて。」



ふと上げた顔の前髪が乱れ、隠れていたこめかみの近くに傷がチラリと覗いた。
銃弾傷…

さすがにもと外人部隊。





「…失礼しました。」




俺は軽く会釈して理事長室を後にした。




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