許嫁(いいなずけ)・壱





「では、仮契約は一月後。
それまでに一度インドの方も見に行かせていただきますわ。」





うだうだ長居した高階陽美は1時間後、やっと重い腰を上げた。



仮契約ねえ。

本契約したけりゃサービスしろってか?



充と握手しながらにこりと笑う高階陽美。
ビジネスはビジネスだろうが。私欲絡めてどうすんだ。

俺は内心唾を吐く。



チャンバラ映画なら、悪代官が町娘を要求するあれだ、
『よいではないか。』ってヤツ。

帯を解いてくるくる回る…


などとおかしな妄想をしていた俺は女の声で我に返った。







「社長。お疲れ様でした。」



駐車場まで見送りに出た俺達の前に現れたのは、小柄で地味な若い女。





「これは小柳さん、ここでお待ちでしたか。」




充が愛想よく声をかけた。



「匠さん、小柳史華(コヤナギフミカ)さん。高階陽美さんの第1秘書をされてる才媛です。」




長い黒髪はひっつめだし、スーツは濃紺の膝した10センチ。
黒ぶち眼鏡は充とお揃いだな。
真面目で地味な印象だが、声は落ち着いてるし、よくみれば綺麗な顔立ち。


なるほど賢い女だ。


女社長に睨まれないように地味な造りをしてやがる。

彼女に好意的な眼を向けた俺の耳に、充が然り気無く囁いた。




『彼女は高階大翔の愛人です。もちろん高階陽美は知りません。』




「‥‥‥」




キツネとタヌキの化かし合いか!
泥沼不倫ってヤツ。


事情はあるにせよ、



「胸くそ悪い。」




俺は走り去る車にさっさと背を向けた。





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